コンセプチュアル・スキルという生き方を固める

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コンセプチュアル・スキルという生き方を固める

 仕事を給与や地位だけで選ぶようでは、すでに終わった人になっている可能性があります。仕事を通じてコンセプチュアル・スキルをいかに身につけられるかが勝負です。しかし、コンセプチュアル・スキルは「市場に受け入れられる企画を構想する」といった軽いものではなく、矛盾だらけの社会や産業、そして会社や組織を根底から変革するための強い覚悟と行動力といった、一種の「厳しい生き方」だと私は考えます。坂本龍馬や宮沢賢治らは生前には大きな成功が認識されていませんでしたが、その努力が時代を追って評価され、後人に永く語り継がれる存在になりました。これが真のコンセプトだと思います。
 会社や組織においても、地位は高くなくとも仕事に対する姿勢や考え方、手法を後輩に残す優れた無名の人は数多く存在します。今回のコラムでは、このコンセプチュアル・スキルに関して述べたいと思います。

 

■コンセプチュアル・スキルを身につけた人が活躍できる時代になった

 私は仕事柄、普段から人一倍多様な業界や職種の方とお会いしますが、その度に痛感することは、「コンセプチュアル・スキルを身につけている人しか活躍できない時代になってきている」ということです。これはある面でエキサイティングなことですが、同時にけっこう厳しい時代だなとも思います。コンセプチュアル・スキルの重要性は、10年前のベストセラーであるダニエル・ピンクの『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代」(2006年三笠書房 大前研一訳)が出版されたころから言われてきたことですが、それが最近身近に感じられるようになりました。
 たとえば皆さんの周りの問題、行きづまり、トラブル等を思い起こしてください。その原因の多くは、時代や環境がすっかり変わっているにも関わらず、物事を過去の思考や発想で捉え、無理矢理それに当てはめようとしているために生じているのではないでしょうか。「頭が固い」「頑固」「視野が狭い」で片付けられそうですが、実はコンセプチュアル・スキルが欠けていることに原因があります。簡単に言えば、発想力や構想力の欠如です。つまり、コンセプチュアル・スキルとは、「社会の動向の中から新たな事象を自分自身の考えと感性でいち早く把握し、その事象(問題や課題)を従来とは異なる独自の範囲と視点で新たな社会的文脈(問題や課題の解決視点と解決システム構造)を創り出す」ことです。
 コンセプチュアル・スキルは、アーティストや新製品企画、広告企画などの企画職に限らず、先端技術の研究者、医師、行政スタッフ、教師など全ての職業に必要になってきています。なぜなら、ネット化やグローバル化、そしてIoT化など、社会構造が根本から変わる事象が増え、全てのことにおいて過去の考えや理論が通用しないことが多くなってきているからです。特に将来IoT時代が本格化すれば、現在の業界や製造業、サービス業といった区分はあまり意味のないものとなり、顧客の経験価値を起点とした新たな発想、アイデア、つまり新しいコンセプトが必要となります。
 ビックデータやAIが普及した時代には、単純処理的な仕事は自動化されていきます。その結果、処理系の仕事は減少し、人間のための人間にしかできないユニークで楽しい創造的な仕事、つまりコンセプチュアルな仕事の必要性が高まり増えていくと思います。

 

■従来の日本ではコンセプチュアル思考をもつ人種はどちらかといえば不遇であった

 コンセプチュアル・スキルには、テキストデータのように既に形式知化されたものだけではなく、むしろ人の「感覚」「感情」「社会の雰囲気」といった形式知化されない曖昧なものを捉える力が必要です。
 ですから、コンセプトを表現するにはスケッチや映像、音楽、ダンス、演劇、小説(ストーリー)、詩などの表現形式が選択されることが多くあります。文章だけで論理的に表現できるコンセプトはむしろ限定的であると思います。私は大学で「コンセプト・メイク」という授業を7年間やっていますが、そこで学生に企画内容の最終提出物をレポート形式の企画書に限らず、音楽、詩、デザイン画、試作品等でも受け付けると伝えています。
 しかし、これまでの日本の学校や職場では、こういった曖昧なコンセプチュアル・スキルを持つことは、むしろ「よけいなこと」であったと思います。検証された情報と論理を積み上げて考え、確実に実行することが重視されてきました。学校の教育も情報記憶力と過去に検証された法則、方程式を覚えて使いこなすことが評価されてきました。そのこと自体を否定はしませんが、あまりにも曖昧さを排除しすぎてきたのではないでしょうか。
 会社も業績管理が厳しくなった今、むしろ1990年代初期のバブル以前より曖昧さがゆるされなくなった様に思えます。「今の若い人は言われたことしかやらない」という話をよく聴きますが、職場が曖昧さを許さない状況では言われたこと以外のことをやってみようという雰囲気にはなれないのだと思います。また、若い人もそういった環境に慣れてしまっているのでしょう。

 

■社会的な広い視点のコンセプトの時代へ

 皮肉にも、世界の大きな方向性の波は日本の厳格な管理社会とむしろ対極に進んでいます。コンセプチュアル・スキルも、限られた製品・サービスなどの狭い範囲のコンセプトから、社会的な広い視点や物へと変化しているのです。新製品の企画で言えば、ターゲット顧客の設定やペルソナの分析、それに焦点を当てた製品・サービスを企画するだけから、広くグローバル社会を見定めた視点、例えば環境問題や貧困や格差社会、ネット社会といったように、より広がりや発展性をもった企画が求められています。
 さらにはエコシステム・ビジネスモデルといった仕組みや仕掛けまでが、コンセプトとして重視される範囲になってきています。これにはネットの普及とグローバル化が大きく影響しています。全てのコト・モノがつながっている中で、どのようにユニークでかつ重要な意味を見いだせるかが勝負になってきているように思います。最近「ソーシャルデザイン」といった言葉を耳にする機会が増えているかと思いますが、一企業のビジネスの製品・サービスのコンセプトであっても、社会課題をいかに捉えているかが重視されていることの現れです。
 たとえば先進的な企業では、デザイン部門も、かつての様にプロダクトのデザインを企画開発する部署から、社会システム、サービス、その課題解決のためのエコシステム・ビジネスモデル戦略までを考える部署に変わってきていて、デザイナーだけでなく研究者、マーケッター、戦略スタッフなどが配置されています。

 

■コンセプチュアル・スキルを向上するためには

 コンセプチュアル・スキルの高さは先天的なものか後天的なものかは解りませんし、また人によって様々なタイプがあるように思います。しかし、スキルの高い人には以下のようにいくつか共通点も見られます。

◎しっかりとした自分の軸を持っている
 社会の変化、動向を読み解く場合、しっかりとした自分の軸の様なものが大切で、それが無ければ単に時代に流されるだけになってしまいます。自分の軸とは、一個人として人や社会など何に対してどう貢献するかという開かれた考え方です。

◎社会的文脈を読む力とそこからの新視点をもつ
 
社会のトレンドを素早く読み、その文脈を適確に把握し、そこから新たな視点をもつことができ、社会に求められているものは何かを考えて解決視点を見つけ出す力です。それを構想にまとめ、周りを説得します。

◎感覚的なものが鋭く情感が豊か
 情報化される前の兆しを感覚的に捉える力がある、いわゆる感性に優れていることです。喜怒哀楽の情感も豊かで一見気分屋のところもありますが、「感動」する力が高く、事象の背景を深く読み取る感覚を持っています。

◎結果を出すために時間・場所に関係なく思考し続ける
 一般の人と比較して思考の時間が極めて長く、また深いようにみられます。仕事とプライベートの区別がなく、思考することが習慣として身についており、思考することが楽しくて疲れを知らない、10年以上考え続けたテーマをいくつも持っているという状態です。

◎挑戦意欲が極めて高く、失敗を恐れない
 人が考えないような目標、ビジョンに挑戦するマインドを持っていて、「出来ないこと」を思考に入れず、常に「できること」を思考する能力です。挑戦することで創造的なアイデアや発想を生み出そうとします

◎集中力、忍耐力が高い
 独自のコンセプトには反対意見や妨害も多い中、そういった逆境を当たり前と考えて気にせず、少しぐらい難しい状況であっても切り抜けることができる。常に集中して課題に取り組み、マイナスの環境や逆境から逃げることなく、プラスに変換しようとします。

◎戦略的な発想と行動力を持つ
 弱みを強みに変え、脅威を機会に変える逆転の発想とそれを実行する戦略力を持っています。形勢逆転の機会を鋭く捉え、一気呵成に進める行動力を有しています。

 

■コンセプチュアル・スキルとは一種の覚悟と行動、つまり「生き方」である

このように「コンセプチュアル・スキルとは何か」について記してみると、それはスキルと言うより一種の覚悟と行動、つまり「生き方」であるように思います。世の中がいう「成功」や「失敗」でコンセプチュアル・スキルの有無を評価することはできないでしょう。たとえば、一時期もてはやされる小説を書けたとしても、それは大したコンセプチュアル・スキルではありません。宮沢賢治のように、生前は一冊も本が売れなかったけれど、没後も世界の多くの人々に感動を与え続ける詩や文章を残した人が、偉大なコンセプチュアル・スキルを持っていたといえます。

 

■最高のコンセプチュアル・スキルの訓練とは「FFEなもの」に取り組むこと

 欧米で流行した考えや方法を日本に紹介したり、マスコミで取り上げたものを言い換えたり、他の人が独自にやった成功の後を追いかけたりすることでは、コンセプチュアル・スキルは鍛えられません。そういったことは「自分はコンセプチュアルな人間」と勘違いしてしまう危険性さえあります。
 イノベーションに関する名著『シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀』(2014年プレシデント社 アビー・グリフィン他)では、イノベーションを起こすためにはFFEの段階で独自のコンセプトを発見することを重視しています。FFEとは「Fuzzy Front End」の略で「とっ散らかった初めの状態」という意味です。この段階を怖がったり避けたり、拒否してしまうようだと本当のコンセプチュアル・スキルを獲得するのは無理だと思います。
 人の後追い、人の出したコンセプトの批判、批評は今の時代には必要ではありません。自分の信念に基づいた、しっかりとしたコンセプトが求められているのです。それは自分の幅を広げ、自分を鍛える訓練課程そのものと言えます。

 

 

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