「異業種連携による新規事業開発」アイデア出しまでは進めても事業化は簡単ではない

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「異業種連携による新規事業開発」アイデア出しまでは進めても事業化は簡単ではない

■なぜいま異業種連携が盛んなのか

 IoT(Internet of Things)が本格的に進むと、これまでの「業界」という枠組みはますます希薄となります。しかし多くの企業は、旧来の「業界」という枠の中で、市場シェア競争を行い、そこで勝つための事業戦略を構想し、実行します。しかし全く異なる業界もしくはビジネスモデルで、その「業界」自体が侵食されます。それさえ気づかず既存の戦略や施策を強化しようとしています。
 自動車業界に対するUberなどのシェアリングサービス、小売業界に対するAmazonなどのECビジネス、食品業界に対するダイエット関連ビジネス、医療業界に対するヘルスケアサービスなど既存の業界に対して破壊的に新規参入する例はますます増加しています。
 新規参入のうちの多くが、異業種が連携したエコシステムやビジネスモデルによるものです。競合が一つの製品やサービス、企業ではなく、異業種で構成された仕組み、システムなのです。したがって従来の経営学の競合分析の概念も当てはまらず、極めて認識し難いのです。人によりますが、特に高齢の経営者の感覚、感性では把握できないと思います。過去の成功体験があればなおさらです。
 そこで最近注目されてきたのが、異業種連携による新規事業開発です。エコシステムやビジネスモデルは一社では構築できません。また既存の業界の枠組みでの発想を変え、新たな発想をするには自社とは異なる業種の人とのディスカッションが欠かせません。多様な考え、思考が創発的に結びつき、そこから新たな発想が生まれ、新規事業開発の可能性が見えてくる。そんな期待からセミナー会社、マネジメント団体、コンサルティング会社、大学、自治体などの多くの組織が異業種連携セミナーを開催しています。

■アイデアソンまではうまくいくが、事業化までこぎ着けるプロジェクトはほとんどない

 ますます盛んになる異業種連携活動ですが、事業化までこぎ着けるプロジェクトはほとんどないのが現実です。「業界の縦割りを壊し、異業種連携で新規事業を・・・・」といったキーフレーズを私たちは過去何度聞いたでしょうか。先日もある大手企業の研究所で講演を行ったところ「異業種でアイデアソンなどのワークショップを何度も行ったのですが、事業計画まで進んだものはほとんどありません。」という話を聞きました。

 異業種でなくても、社内の事業部を超えた連携プロジェクトでも同様なことが聞かれます。しかし、冒頭でも述べましたが、グローバルで世の中を見渡すと、多くの破壊的新規事業が多く生まれています。
 これは日本に限ったことではありません。デザインシンキングで有名なカリフォルニアのデザインコンサルティングが主催する異業種連携インキュベーションのワークショップでも成功した事業はほとんどないと聞きました。
 確かにアイデアソン、アイデア創発の異業種ワークショップは、そのイベント自体、普段の仕事と違ってとても刺激的で、個人のネットワークもでき、確かに効果的と思える新たな発想も生まれることから有益なものです。しかしそのほとんどが事業化まで至らないのです。

■異業種連携の活動がなぜ事業化まで進展しないのか。その主な理由

 異業種連携の活動がなぜ事業化まで進展しないのか。メーカー時代も含めて新規事業を30年近く進めてきた私から見て、その主な理由は3つあると思います。

 

①    そもそも新規事業開発のプロセス、段階が不明確。異業種でのアイデアソンがどの段階のワークなのかが不明確

 日本企業に限らず、多くの企業が新規事業開発のプロセスがない、もしくははっきりしないことが大変多いと思います。特に最近の企業の成長戦略は、既存事業の強化やそのためのM&Aなどで、社外のベンチャーなどを買収することが多くなっています。いわゆるオーガニックグロース(内発的成長)が少なくなり、そのマネジメントプロセスが貧弱になっています。
 そのような状況の中で、異業種連携でのアイデアソンで出された事業アイデアがどのように位置づけられ、またその後どのようにコンセプトとして開発されるのかが不明確なのです。せっかく出されたアイデアの行き場がなく、「兼任の新規事業担当者に丸投げ、後は頑張って」ということが多いのです。
 新規事業開発プロセスとはおおよそ1)与件、経営トップの方針、目標、仮説 2)アイデア創発 3)事業コンセプト開発 4)事業計画 5)事業スタート準備です。このプロセスに異業種を組み込んだり、異業種が共同で進めたりすることが必要です。

②    戦略仮説を持っていないまま異業種連携を行おうとする

 経営や事業の業績において、将来大事な新規事業であれば、そもそも異業種に依存することは危険です。事業の業績は自社が主体的に生み出すのが本質です。したがって異業種連携でのアイデアソンや事業連携においては、まずは自社単独で大まかな、しかし効果的な戦略仮説を前提とするべきです。その仮説なく、行き当たりばったりで異業種連携を行うのでは、主体性も継続性もないのが当たり前です。もちろんその仮説はあまりカッチリした詳細なものではいけません。検証もしつつ、異業種のアイデア、発想を取り入れられる柔軟なものでなければなりません。
 新規事業の戦略仮説を出すための刺激剤としてのアイデアソンは有効だと思います。長年同じ業務ばかりに携わっていると、新しい発想が全く浮かばないことはありえます。その際の柔軟体操、準備としての異業種でのアイデアソンは効果的だと思います。しかしそれはごく初期段階だけの話です。

③    アライアンスパートナーとの関係性戦略とそのマネジメントスキルを持っていない  

 IoT時代はこの関係性をいかにマネジメントできるかが勝負だと思います。会社の将来の運命を賭けた新規事業開発では、いかに異業種他社との関係を構築するかがキーとなります。したがって異業種を事業開発のどの段階で、どのような役割や立場で、さらにはその関係性の強さはどの程度なのかをよく考えなければいけません。このあたりが誰にとっても大変難しいのです。関係する異業種が全て同列であることはありえません。
 しかし現実はそういった関係性戦略を持たず、異業種連携を行い、また関係性戦略とそのマネジメントスキルを持たないため、異業種連携を諦めることが多いのです。

 

■異業種連携による新規事業開発には基本領域を認識する必要がある

 異業種連携による新規事業開発戦略では、基本領域を認識する必要があります。どの領域で新規事業開発を行おうとしているかの狙いとリスクを認識することが大事です。基本領域は大きく4つあります。

 一つ目は既存ドメイン強化のための異業種連携戦略(強化、防衛)です。この領域を新規事業と考えるかどうかは会社や事業によりますが、既存事業であっても戦略を大きく転換する際には異業種との連携は十分に考えられます。特に部品点数の多い組立加工型の業態や、コンビニエンスストアなどの複数の製品・サービスを扱う流通業では、既存事業であっても異業種連携が重要です。
 二つ目はドメインシフトのための異業種連携戦略(新市場・顧客の参入、進出)です。この領域はコア技術を新市場に展開するための異業種連携です。異業種の顧客、国、地域などで展開するケース等です。
 三つ目は、ドメインシフトのための異業種連携戦略(新技術・製品の参入、進出)です。この領域は自社の保有する顧客、市場に異業種連携で新技術、製品を投入するケースです。
 四つ目は、新市場創造のための異業種連携戦略(新地創造)です。この領域は市場の導入期、黎明期の急成長する市場において、技術、製品方式、ターゲット顧客変化によって生じる事業の方向性の変動リスクを低減するための異業種連携です。インターネットの黎明期、現在のIoTの黎明期に効果的です。
 以上のように、現在考えている異業種連携による新規事業開発は、4つの象限のどこを狙っているのかを明確にすることで、連携する異業種の業種、企業規模、戦略などの連携の条件が明確になります。

■異業種連携での新規事業開発の10の成功要因

 ここまで、異業種連携での新規事業開発の前提条件をいくつか述べてきましたが、異業種連携を実践する上での、10の主な成功要因を述べたいと思います。

成功要因1:強烈な問題意識から生まれる理念、目的とその共有

 成功する異業種連携には必ず強烈な問題意識と理念、目的があります。たとえばヘルスケアでいえば「健康を害して治療に莫大なコストをかけるのではなく、病気にならない生活習慣をつくり、多くの人を幸福にする」といったものです。この問題意識が強烈で、理念、目的が高ければ高いほど、業種、価値観、立場が異なる人、組織を巻き込みやすくなります。大きく広い傘を持っているようなものです。反対に小さい目的、理念であれば参加する企業や組織も限られ、またモチベーションも高くなりません。
 高い理念や目的は、異業種連携の際に避けることのできない利害対立を緩和させ、また利害対立を切っ掛けに、より創造的な知恵を生み出す可能性を引き出します。手段や自己都合で議論するのではなく、あくまで目的や理念に照らして正しいことを議論できます。

成功要因2:コアメンバーの強い結束力

 IoT関連ビジネスでは多数の企業との連携が必要となります。その際に参加意識レベルの異なる10社、20社と同時に話を進めていくのはコンセンサスをとるのに時間がかかり、リスクの高い方法です。コアになるメンバー会社を3社、多くても5社程度募り、そこがいわば会社のボードメンバー的立場で責任を持ち、顧客はじめ、全参加企業の立場で議論し、意思決定するのが良いと思われます。
 コアメンバーは、連携プロジェクトの目的、理念を強く意識して結束し、異業種連携に献身的に貢献しなければなりません。コアメンバーは必要に応じて集合し、課題を議論し、意思決定します。会社の役員が社員や取引先に対してリーダーシップをとることと似ています。コアメンバーの会社だけに有利な結論を出すと、その他のメンバー企業も顧客もついてきません。公正なリーダーシップが求められます。

成功要因3:顧客提供価値が2倍以上になる構想

 異業種連携で議論され、企画される顧客価値は、既存ビジネスの10%増し、20%増しといったレベルでは、社会や市場に対してインパクトがありません。統計的な根拠があるわけではありませんが、異業種連携での新規事業はイノベーションでなければなりません。したがって顧客提供価値は既存の2倍以上になるものでなければなりません。結果としてそれは新しいカテゴリーを創造することになると思います。
 顧客提供価値を2倍以上にすることを意識すれば、思考、発想は既存の枠組みを超え、大きく変わります。異業種で議論する場合は特に効果的です。1社ではできないことも業種を超えた連携では可能なことが多いからです。
 反対に2倍以上の価値が生み出せない異業種連携による新規事業開発プロジェクトは解散するべきです。範囲を限定した業務提携か通常取引のレベルで良いと思います。

成功要因4:市場参加者が半分以上入れ替わる、もしくは2倍以上増える

 「顧客提供価値2倍以上」と並んで、市場参加企業、組織数が半分以上入れ替わる、もしくは2倍以上増えるというのも、異業種連携で新規事業を検討する際の重要な指標です。これは市場のイノベーションを起こせるかどうかを示しています。市場参加者が今のままだと市場構造は大きく変化せず、市場のイノベーションにはなりません。
 AmazonのECビジネスは、小売業界の市場参加者を変え、Googleによる自動運転という市場イノベーションは、自動車業界にAIや情報通信などの新たな参加者を多数呼び込んでいます。

成功要因5:各社のコアコンピタンスがネットワークされる

 革新的な新規事業とは、強みが連携され、これまでの製品・サービスを飛躍的に上回る価値を出すものでなければなりません。異業種連携による新規事業開発でいえば、参加する各社の中核的な強みであるコアコンピタンスがネットワークされ、新たなビジネスモデルが構築されることです。
 そのため異業種連携に参加する各企業のコアコンピタンスは何か、それがどのような役割で連携に参加するのか、参加企業同士の連携で新しく生まれるコアコンピタンスは何か。ビジネスモデルの中に、顧客から各社のコアコンピタンスへのフィードバックループが発生するどうかを企画検討しなければなりません。

成功要因6:早い段階で顧客(最終受益者)を巻き込む

 異業種連携での新規事業の大事なパートナーの一つに顧客(最終受益者)があります。一社単独では独断に陥るのを強く意識し、顧客調査、巻き込みを早期に行いますが、異業種連携では、他社に依存しがちです。実は誰も顧客の意見を深く聞いていなかったということはよくあります。異業種連携であろうが、一社であろうが、顧客にとってみればそれはどうでもよい話で、顧客提供価値が高いか低いかが問題です。
 異業種連携による新規事業開発でも,早期に顧客を巻き込み、顧客テストを行うべきです。そして早い段階で独自の高い顧客提供価値を確立しなければなりません。

成功要因7:新規事業開発のプロセスをプロジェクトとしてマネジメントすること

 冒頭でも述べましたが、異業種連携であるかどうかを別にしても、新規事業開発は明確なプロセス管理が必要です。新規事業開発プロセスとはおおよそ1)与件、経営トップの方針、目標、仮説 2)アイデア創発 3)事業コンセプト開発 4)事業計画 5)事業スタート準備、といったプロセスで進められます。最近流行しているアイデアソンは2)のアイデア創発の一つの方法です。またデザインシンキングは2)アイデア創発や3)事業コンセプト開発で使用する手法の一つです。にもかかわらず、アイデアソンやデザインシンキングが新規事業開発を成功させる万能の手法のように語られているのは無責任さを感じ、大変残念です。
 「アイデア」とは「事業コンセプト」を構成する要素です。「事業コンセプト」とは、ある独自の意味をもった概念そしてシステムです。システムである事業コンセプトを構想するためにはマーケティングや技術検討など多くの作業が伴います。
 したがってそのためにはプロジェクトマネジメントが必要となります。ただし、異業種連携の新規事業開発の場合は、複数社の連携でこのプロジェクトが進められます。そこに難しさがある一方で、ダイナミズムがあります。

成功要因8:オープン&クローズでの機密保持契約と知財戦略

 市場にインパクトを与える異業種連携では、各社のコアコンピタンスの連携が前提となります。したがって各社が秘匿したい技術、スキル、ノウハウを連携企業に開示しなければなりません。その際、異業種連携に参加する企業は、異業種連携の範囲で開示できる部分と、異業種連携であっても秘匿しなければならない部分を明確に区分しなければなりません。全て秘密で何も出せないのでは連携はできません。
 異業種連携では、原則的にオープンにする部分とクローズにする部分の区分の方針を明確にし、それぞれの社内でオーソライズすることが求められます。さらに一気に情報を出し合うのではなく、いくつか段階を踏んで開示します。アイデアソンの段階では、非開示部分については情報を出さない方が自由に議論できることが多いと思います。事業コンセプト構想段階では、ある程度の開示が必要です。
 また異業種連携の中で発生したアイデア、発想で重要なものは、連携組織の中でパテントプールのような形態をとる必要もあります。

成功要因9:資本提携、業務提携などの事業形態を明確にする

 異業種連携による新規事業を価値あるものにするには、効果的な事業の形態を選択し、それを具体化する必要があります。参加各社が合弁会社をつくり(資本提携)その新会社と各社が業務提携する形をとるのか、合弁会社はつくらずに、業務提携だけにして各社が主体的にそれぞれの事業を行うのかといった事業形態を明確にする必要があります。そのためには財務、法務などの知識が必要になります。
 事業形態は事業の中身ができてから議論するのではなく、仮説構想の段階、アイデア創発の段階から想定しておくべきです。

成功要因10:人材開発戦略

 10個目の成功要因は異業種連携の人材開発です。この人材とはアイデア創発段階だけでなく、事業コンセプト開発、事業計画策定までをマネジメントできる人材です。社内であっても組織横断的活動は簡単ではありません。会社を超え異業種連携となるとかなり難しいプロジェクトマネジメントとなります。
 異業種連携プロジェククトは、まず社内で役員をスポンサーとして、プロジェクトリーダーを置き、その下に、事業、技術、営業マーケティング、法務、知財という専門家を配置します。社内のプロジェクトリーダーは、他社のプロジェクトリーダーと連携しながら社内の役員、メンバーと連携します。異業種連携プロジェクト全体のプロジェクトリーダーは、プロジェクトの理念、目的を起点に、各社をリードし纏めていきます。
 現在どこの企業でも、このような異業種と連携を推進するリ-ダーが不足しています。大企業でもふさわしい人がいないというケースさえあります。
 異業種連携のための人材は、いきなり異業種連携プロジェクトで育成するのではなく、まずは社内の組織横断的プロジェクトで育成すべきと思います。M&Aや1対1のアライアンスプロジェクトで経験を積むのもよいと思います。いずれにせよ、計画的に人材を育成していかなければ、競争に勝てない時代に入っているといえます。

 以上少し長くなりましたが、異業種連携による新規事業に関してその重要なポイントに関して述べました。異業種連携は、私自身決して望んで取りくんできたのではありませんが、偶然もあり、メーカー時代からかなり多くの経験を積むことができました。そして今現在も、大学、様々な業種の企業と私達の会社も一参加企業として異業種連携プロジェクトを進める当事者となっております。今後テクノロジーや企業組織に関する考え方が変化することで、異業種連携も方法論も変化していくと思います。当事者として係わり、チャレンジしていくことで方法論の開発になればよいと思います。

 

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