デジタル時代の既存の大企業の強みとは

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デジタル時代の既存の大企業の強みとは

デジタル時代の既存の大企業の強みとは

 ベンチャー企業が指数関数的な成長を見せる一方で、大企業の成長、発展は難しいと考えられがちです。しかしデジタル化の勝負はこれからだと思います。なぜならデジタル化によるビジネスはバーチャル領域だけではこれ以上あまり成長しないからです。そこでフィジカルな領域に強い多くの既存の大企業に莫大な機会が生まれます。なぜ大企業はデジタル時代でも優位性があるのでしょうか。ここでは大きく3つの強みをとりあげます。

①  物理的(フィジカル)な資産を所有しマネジメントしていること

 2017年、米国巨大小売業のウォルマートは、アマゾンと並ぶネット企業の巨人、グーグルとネット通販事業で提携しました。グーグルのネット通販・宅配サービス、「グーグルエクスプレス」で、ウォルマートが日用品など十数万点を提供することで、アマゾンに対抗しました。さらに、グーグルのAIスピーカー、「グーグルホーム」やスマートフォンを使って声でも注文ができるようにし、グーグルの強みを活かしています。ウォルマートの場合、自社のECサイトへの投資だけでなく、ネットビジネスのノウハウを異業種との連携で獲得し、破壊的参入企業に対抗しようとしています。
 ウォルマートの例からも分かるように既存の大企業は、研究開発、開発設計、製造、物流システム、店舗や営業網など巨大な物理的設備、システムを持ち、それを管理しています。この物理的なもの、バーチャルに対しフィジカルなものを運用できることが強みの一つです。バーチャルなビジネスも、フィジカルなものと連携することで競争力が飛躍的に向上し、有益力もアップします。しかしそのフィジカルなものが他でいくらでも手に入り、さらにその資産をシェアするようになると、連携は成立しません。

②  過去の研究開発の蓄積と優秀な人材を保有していること

 技術が人間の能力を超える限界点“シンギュラリティ”の議論は人工知能などの情報技術で語られることが多いのですが、バイオ医療、バイオ技術、ロボテク、ナノテク、神経科学などのたくさんのフィジカルな領域でも注目されています。それらのほとんどが製造業はじめ大企業の研究所や大学の研究所が取り組んできたことです。もしシンギュラリティが実現するとすれば、単にバーチャルで実現することはありませんので、必ずフィジカルな要素が入ってきます。多くのフィジカルなものは、膨大な実験、検証とそれを進めていく上での倫理などの検討を重ねていかなければなりません。そのためにはしっかりした組織体制が必要で、大企業や大学の研究所にはそれが備わっています。
 しかしそのような研究所の仕組みや人も、外部や他の専門分野に対して閉鎖的で、ある一定の領域に留まっているようであれば、強みにならないと思います。その意味では研究開発のマネジメントの考え方、方法も大きく変える時期なのだといえます。

③  顧客資産はじめ膨大なネットワークをもっていること

 ベンチャー企業からみると、多くの大企業は顧客を資産、つまり「お金を生み出す大事な財産」と考えていないのではないかと感じます。今の日本の多くの大企業は、社長でさえ入社したときから既に大企業でしたので、顧客という資産をゼロから獲得した経験は少ないと思います。問題は顧客を単に既存の製品・サービスの販売先と考えてしまうことです。顧客は、時には共同で事業を行うアライアンス先に、時には仕入れ先にもなり、様々な可能性を秘めています。平均的な日本の大企業は、そういった取引先を国内外にどのくらい保有しているのでしょうか。おそらく膨大な数です。この膨大な顧客のネットワークは、シリコンバレーのユニコーンでもそう簡単に構築できるものではありません。人や資金そして、社会的影響力を持つまでの時間が必要です。
 このように既存の大企業の強みの一つは膨大な顧客とそのネットワークを持つことですが、これもフィジカルな資産同様、活用する発想と外部とのオープンな連携姿勢と実際の行動力、意思決定力がなければ、強みどころか維持管理のコストばかりがかかるものになるでしょう。

大企業の有利さを大きな成長に繋げるには何をすべきか

 ではこの大企業の有利さを実際に成長に繋げるためにはどのような戦略視点があるでしょうか。2つの戦略視点を紹介します。

戦略視点1:現在参入している既存市場やその周辺は避け、新しい分野に破壊的に参入すること

 ほとんどの大企業の年間の売上成長率は一桁台です。それも市場が成熟しているため、事業部門の人たちはその売上成長率のために相当な努力をしています。そういった既存事業やその周辺で、新たに立ち上がった新事業開発組織が何か新しいことをやろうと言っても既存事業の人たちは協力してくれません。また考えつくことは、多少やり方の違いはあるにしても大概すでに実施しています。
 大企業も新事業で成長することを目指すなら、破壊的参入を目指すべきです。「破壊的」というと他社の事業を「破壊」するので何か心苦しい感じがしますが、何かの機能を全く異なる業界、企業が代替するので、多くの場合、事業を直接破壊することは少ないと思います。
 例えばコマツがコムトラックスの延長で構想している無人コンストラクションは、土木業界のゼネコンの市場を破壊していますし、トヨタ、日産、ホンダなどの日本の自動車メーカーが、自動運転を進める傍ら自動車をコンピューティング端末と見立て、道路や地域の情報を収集しはじめると、それはグーグルの事業領域を破壊することになります。同様にヘルスケアIoTは、非医療に特化していますが、従来の医療費を削減するという意味では、医療市場を破壊して、新たな価値を創造、提供していくのだと思います。AI、IoTなどのデジタル時代には、大企業もまたそれらを活用し破壊的なスタンスで市場を捉え、イノベーションを仕掛けていくことが必須です。

戦略視点2:異業種連携で破壊的なイノベーションを起こす可能性の追求

 これまで述べたとおり、大企業には蓄積された研究開発技術やそれを発展させる人がいて、顧客はじめとする取引先などの膨大な資産、社会的信用があります。皆さんもそこは納得すると思います。しかしこんな声が聞こえそうです。「ウチの会社では、破壊的イノベーションなんか、たとえ誰かが考えたとしても実行は到底できない」と。
 しかしそれが異業種連携だと可能性が見えてきます。その理由は3つあります。1つ目は、連携で新事業の企画構想をする場合は、現在各社が参入している既存の市場にこだわらずに議論ができるからです。今、満たされていない社会課題、顧客の潜在的なニーズを日頃の発想から脱し、多面的な視点で、各社のリソースを組み合わせて新たに創造するのです。その結果その新事業は「破壊的イノベーション」となっている可能性が高いでしょう。
 2つ目は1社単独ですと単発の製品・サービスになりがちですが、複数の異業種との連携では、まずイノベーティブな顧客価値を構想し、それを実現するためのエコシステム・ビジネスモデルを構想します。イノベーティブな顧客価値やエコシステム・ビジネスモデルから発想することで、大変魅力のある事業が構想できます。
 3つ目は、既存企業のリソース、社会的信用は極めて大きく、それらを組み合わせて破壊的な新事業に挑戦した場合、同じことにベンチャーが取り組むよりも相当早く実現できると考えられます。すでに顧客を保有し、協力してくれる多くの取引先があり、政府との関係なども強いため、本気で始めればベンチャーは歯がたたないということもあり得ます。AI、IoT、シンギュラリティなどと言われている時代にウチの会社がイノベーションを起こすのは無理と考えることは、論理的に考えればおかしな話なのです。
 しかし、確かに既存企業の異業種連携にはたくさんのボトルネックがあります。例えば経営者の支配的な思考発想です。多くの既存企業は、限られた業界の中で、自社を中心に発想する癖があります。特にシェアが大きく、産業の食物連鎖の頂点に立っていると考えている、自動車、家電、大規模プラント、電力などのエネルギー産業、通信、コンビニエンスストア、銀行などはその傾向が強いです。パートナーシップの発想が持てず、ついつい支配的な発想をし、全てを管理下に置こうとします。その結果出資比率、経営権を握ることばかりに意識が向き、肝心の事業の中身が貧弱なものになってしまうことはよくあります。
 また、既存の大企業にはベンチャー的な気質を持ち、実際にベンチャーで仕事をしてきた人が少ないのが現状です。異業種連携は比較的大きな企業の連携となることが多いのですがイノベーションを起こす人が少なく、育成もできていないこともボトルネックの一つです。
 さらには既存事業にかかわる人や現体制を変えたくない人・組織が邪魔をすることです。なぜなら破壊的な新事業は、全く異なる市場への参入といえども既存事業や現在の経営に何らかの影響を与えるからです。現状を維持したいと考えるいわゆる保守的な人や組織がボトルネックとなります。
 「“異業種連携による破壊的な新事業開発”、確かに魅力的だが中々難しい」確かにそうですが、このままの経営を継続していくことが大きなリスクであることも現実です。魅力的で安定的なビジネスであればあるほどイノベーターの破壊の対象になり得るからです。

以上今回のコラムではデジタル化における既存大企業の強みとそれをものにするための戦略視点の提言を述べました。いずれにせよ過去の発想をあえて捨てること、挑戦、実験的な行動が必須です。まずはご自身の周りから試してみて実感していただければと思います。

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