「グローバル・エイジ」のリーダーからの提言

ニューチャーネットワークス
ユイマール
代表取締役 高橋 透 2009年1月7日

 新年明けましておめでとうございます。昨年新たに始めたグローバル・エイジも2009年に入り、ますますご提供する内容を充実させたいと思いま す。昨年後半に引き続き2009年は変化の年になろうかと思いますが、皆様の会社ならびに皆様のご健闘、ご活躍を心からお祈りいたします。
 年頭にあたり、ニューチャーネットワークスおよびユイマール代表取締役の私、高橋透より、「2009年パラダイムチェンジへの挑戦」と題した提言をさせていただきます。すこし長い論文になっておりますが、お読みいただき、お仕事のお役に立てればと思います。 本年も、ニューチャーネットワークスおよびユイマールをどうぞ宜しくお願いいたします。

■ バブルという幻想をつくりだした世界経済

 米国発サブプライム問題に端を発した世界経済の激変。確かに07年の夏頃から予測していた経済アナリストは何人もいました。私自身もそれらの分析 を読み、それなりに構えていたつもりです。しかし北京五輪の直後の9月あたりから、米国金融業界に始まり、世界の実態経済をも大きく飲み込む「グローバル レベルでの経済の崩落」を予測できた人はあまりいなかったと思います。
 もしバブル崩壊を予測した人がいたとすれば、株価などの資産価格が急落する前に、全てを売り抜けることが出来た一部の投資家でしょう。多くの人や企業 は、バブル崩壊の可能性は分かっていたけれど、加速化するバブルという電車からなかなか降りることができず、ついに大きな損失を出してしまったのではない でしょうか。リーマンブラザーズ証券が破綻した直後、知人の有名なアナリストが「リーマンブラザーズは米国政府が救ってくれると思っていた」と話していま した。私はその話を聞いた時、世界中のさまざまな個人や企業、国家までもが、互いに影響し合いながら、自分たちではその実態を認識することも、ましてや管理することもできない大きな "バブル″という "幻想″をつくり出し、自らその中にとりこまれてしまったのだと思いました。そしてその"幻想″は、2009年になる今なお急速に収縮する方向に逆回転しており、止まらない状態です。

■ 世界経済は「視界不良の氷河期」

 08年の年末に発表された、09年の世界経済の予測は、日米欧などの先進国では、09年はGDPの成長はマイナス、回復は早くても2010年以降 になると言われています。IMFや日本の内閣府の2008年12月時点の予測では、中国のGDP成長率は5-6%で、中国政府の8%目標を大きく下回ると 見ています。8%の成長率を維持できなければ農村から工業都市へ出稼ぎに来ている労働者が失業し、その規模から社会的な混乱につながる危険性もあります。
 エコノミスト誌08年12月22日臨時特集号をみても「世界経済は長期の成長率低下に入った」(慶應義塾大学 竹森俊平教授)、「デリバティブ金融危機 は終わっていない」(日本経済研究センター 深尾光洋理事長)、といった具合です。つまり専門家の多くの見解は共通しており、世界経済は現在、大気温が急速に低下した「氷河期」で、しかも深い霧で「視界不良」であるといったようなこと言っています。

■ 「欲望と不安」が根源

 今回の世界経済崩落の原因はどこにあるのでしょうか。まず第1に、ここ30年近く、米国そして英国が、経済の発展の主要原動力を、製造業ではなく、金融におき、そのウエートを高めすぎたことが原因の一つとしてあげられます。同時に情報インフラが世界中隅々まで行き渡り、世界中の個人までもが、米国や英国の資本市場に参加出来るようになりました。多くの資金がウォール街とロンドシティなどをはじめとする主要資本市場に集まり、その信用膨張が世界経済の重要な柱になってしまいました。
 90年代ロシアや中国などの旧共産圏が大きく方向転回し、資本主義化したこともあり、世界の多くの個人・企業・国家はより効率的に「利潤」を追い求める 価値観、端的に言うと「欲望」を原動力に経済社会が大きく膨らんでしまいました。国民福祉を実現させるべき国家も「株価」そして「経済成長」を重視し、そ れを阻害する要因を取り除き、市場取引を活発化させることに注力してきた傾向があります。
 金銭的な「欲望」を達成させることが世の中の常識になると、それを行っていない人や組織は、相対的に劣勢にたってしまい「不安」となります。数年前から米国をはじめ日本でも、専門書でないごく一般の書籍で、「金持ちおとうさんはレバレッジを効かせる」や「賢い人は銀行に金を預けない」などといった金持ち行動を起こさない人の不安をあおるような本が多数出版されたりもしました。
 このように世界中の多くの人が「欲望と不安」の中で、マネーゲームに走ってしまいました。その投資対象に「サブプライムローン」という不健全な異分子が あり、それが複雑な構造をしていたために伝染病のように世界経済に影響を与え、今回の世界経済の崩落につながりました。強い欲望の反動としての不安も、ま た大きなものとなってしまいました。
 製造業を始めとした「実態経済」と言われる部分も、加速度的に拡大してきた信用膨張の経済成長に依存してしまったために、大きなダメージを受けています。世界的なブームとなったセレブのための高級品なども、所詮「欲望」の対象の一つでした。そのような意味では実態経済までもが実態のないものの上に成り立っていた部分で成長していたと言えます。

■ 我々はバブル崩壊から何を学ぶか

 今回のような世界規模のバブル経済はその成長過程で多くの歪みをつくってきました。一つには、各国で起こっている「格差問題」。大きくの企業経営 が株主を重視し、経済変動に耐えるため、雇用を流動化し、低賃金の派遣労働者を増やしました。日本でも約1700万人以上、労働者の4分1ぐらいの人が非 正規雇用で、低賃金と職を失う不安の中で、金銭的にも、精神的にも苦しい生活を余儀なくされています。
 英国や米国でも、企業のCEOが個人としては莫大な報酬を手に入れる傍ら、低賃金労働者が増えました。さらに多くの移民をその受け皿にし、国内の労働者はますます仕事に就けなくなっています。
 先進国の多くは、80年代の米国のレーガン大統領や英国のサッチャー首相らが目指した、小さな政府により政府支出を削減し税収を多くするために、社会保 障を削る一方で、金融をはじめとした経済活動を促進するための規制緩和、国のサービスの民営化を推進しました。日本でも現在その反動で、介護や医療に携わ る人が減るなど大きな社会問題となっています。

■ バブル崩壊をきっかけに

 一方、今回の大きな世界経済の悪化は、世界経済をよい方向に導いてくれる可能性もいくつか考えられます。
 一つは、世界経済は今や「カップリング」つまり、グローバル化が進み、どこの国もエリアも経済変動が同期化する傾向にあります。これは、どこか一国が経済や軍事力にものを言わせた強引なことはできないということです。またこれまでの歴史のように英国そして米ソなどといったリーダー国が不在という状況にもなり得ます。これは一種不安ではありますが、粘り強い対話により世界の合意をとっていく方向に持って行くことによって、公正な世界経済の運営が行われる期待にもつながります。
 二つ目に、ファンドや証券化など、これまで放置してきたと考えられる金融機能を修正し、金融に依存しすぎない経済をつくることです。現 在米国の次期オバマ政権は、証券会社や投資ファンド、格付け機関などに対し、規制をかけることを計画しています。日本でも同様な規制が検討され始めていま す。このような規制を検討することは、金融機関が暴走しない、させない仕組みをつくるための大変良い機会です。それにより、金融以外の産業に優秀な人材を シフトさせ、過度な欲望を刺激する方法ではない、健全な経済社会をつくることができるかもしれません。
 三つ目は、「環境重視の社会」の構築です。ブッ シュ政権の米国は、CO2排出量を自主的に守る「京都議定書」に参加しませんでした。現在世界経済が低迷している今こそ、経済成長を一旦緩めながらも、環 境問題を真剣に見直す時機ではないでしょうか。このまま経済拡大が突き進めば、我々の次の世代に自然環境という世代間にわたる資産を残すことができなくな ります。また環境重視の社会を目指すことによりエネルギーや農業などの分野において新しい産業が創成され、健全な経済社会の発展につながります。

■ 2009年はパラダイムチェンジに挑戦するスタートの年

 さて、2009年に産業界そして企業人として念頭に置きたいことについて、私なりに考えてみたことを述べたいと思います。
 まず、前提として、2009年はこれまで30年近く続いた金融資本主義を中心としたパラダイムが大きく変化する年と考えます。そして我々は新たなパラダイムの構築に挑戦しなければなりません。そ のパラダイムとは、地域社会そしてネットワークされたグローバル社会や地球環境といた我々が住むコミュニティを重視する考えに徐々にシフトしていくと思い ます。とどまることを知らない個人の欲望を原動力にした経済から、個人の欲望を適切にコントロールし、自分と職場、地域、国、そしてグローバル社会の相互 関係を皆で作り上げていく社会です。
 そこで私は、2009年に企業がスタートさせるべき3つのパラダイムチェンジを提言したいと思います。

パラダイムチェンジ1:グローバル社会における企業の役割を見直し、実践に移す

  企業には社是、経営理念、ミッションなど、企業が追求すべき普遍的価値観が掲げられています。そのほとんどは社会的な役割を重視したものです。 しかし現実はどうでしょうか。多くの経営者は、つねに株価を意識し、そのために短期的な利益を最大化することに注力しすぎているのではいないでしょうか。 消費者や顧客に真の豊かさを提供する努力はおこなわれているのでしょうか。一人でも多くの人に働く機会をつくろうと努力し、さらに人を育成しているので しょうか。
  これからの企業の役割は大きく変化すると思われます。企業が社会の中で果たさなければならない責務はますます大きくなっています。また企業の活動は、社会にとって、顧客にとってなくてはならないものであるべきです。
  個々の企業は、どの様な面に関して社会的な責務を果たしていくのか、それはどの程度なのか、その結果企業は安定的に経営を継続出来るようになっている のか。企業活動を継続させるためにコアになるイノベーションは何か。などを再確認し、全てのステークホールダーを説得していかなければなりません。
 社会的な役割を明確に提示して、それを一貫して実践すること。それがステークホールダーとの信頼関係となり、真のブランドとなります。

パラダイムチェンジ2:企業の成長の定義を量的なものから質的なものへ

 企業はこれまでの成長に対する考え方を、量的成長から質的成長へシフトさせ、新しい枠組みで成長というものを考えなければなりません。単に売上高 や売上高シェアに代表される規模的な基準でなく、ここではむしろ社会や消費者に対する認知、マインドシェアにおける成長が重要視されます。
 企業は、「快適で豊かな自然環境」「心と体の健康」「ゆったりとした時間」「家族や友人との楽しいひととき」「歴史、音楽、など文化を学び楽しむこと」といった心理的な価値、自己実現的な価値を重視する社会や市場を創り出していくという視点が重要になると考えられます。
 そのためには「企業の精神文化の発展、進化が成長の根源であると認識すること」が重要です。企業業績の成長を左右する要因は、投入する資本金や設備投資 規模の大きさといった量的なものから、「やる気、モチベーション」「アイデア力、発想力」「構想力」といった人間のもつ思考力や意識といったものにシフト してきています。給与などの金銭的インセンティブよりも、「経営理念、使命感、ビジョン、自己実現の機会」などいわば企業の「精神文化」が、企業の重要な成長要因として注目されると考えられます。
 さらに企業はこの心理的、精神的なものをベースとした企業の質の成長戦略を、具体的にビジネスとして組み立て実現していくことが必要です。質の成長の視 点を、商品やサービス、ビジネスモデルなど、具体的にビジネスとしてどのように構築していくか問われる時代になると思われます。質を求める顧客や社会を “ビジネスチャンス”としてとらえ、発想を変えた顧客提供価値を創造していかなければなりません。

パラダイムチェンジ3:個をベースにしたネットワーク社会への進化

 これからの企業は、社員個人の一生を丸抱えすることは難しくなると思います。同時に個人も、一つの会社で一生過ごすことも少なくなります。これま で以上に情報環境が発達し、整備されることで、社員として会社に所属していなくても、社員と同等に働け、報酬をもらうフリーのプロが多くなると思います。 社員と契約社員、外部企業のスタッフの境目がなくなります。そのため仕事に対する個人のプロ意識も高まり成果に対し厳しくなる、一方で自分の時間を自由に 使えるなど、個人と企業はもっと柔軟な関係になると思われます。
 これまでも主に単純な仕事において、契約社員や派遣労働者などの仕事の形態はありましたが、今後は高度な知識労働者においても非正規雇用が増加すると思 われます。これらの非正規雇用の増加により、彼らの発言力が高まり、企業に一定の影響を与える存在となると思われます。同時に非正規雇用者は、その貢献度 からいっても、国のシステムで守られるべきです。そのような会社に属さない個人のプロが活躍できる社会基盤をつくることによって、企業は柔軟な雇用システムが構築でき、一方で個人は失業を心配することなく、自分のライフスタイルに合わせた仕事を選択できるようにするべきだと思います。
 このようなインフラが整ってくれば、個人は単に経済活動だけでなく、家庭生活を楽しみ、地域社会活動などにも参加することができ、バランスのとれた社会 ができあがるはずです。そのような社会を、個をベースにしたネットワーク社会と呼びます。ここで注意しなければならないのは、このネットワーク社会は、自 律した個人で形成されたものであり、つねにネットワーク全体への貢献を意識したものであることです。

 以上が私の考えた、激動の2009年を乗り越え、新たな社会をつくっていくための私の提言です。私自身、このパラダイムチェンジの提言をニューチャーネットワークスおよびユイマールの経営を通じ、またそれらの仕事を通じ実践して行かなければなりません。
 我々が生きていく中で、今年ほど大きな変化の年はないと思います。「一 生に一度ぐらい、全力で走りきった。これまでの思考にとらわれず精一杯チャレンジした」と言えるくらい、社会や仲間、そして家族のために仕事に打ち込む年 があっても良いと思います。つまり大変化の時代の変革とは、自らの考え=パラダイムを変革することが成功につながると思います。

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