「グローバル・エイジ」のリーダーからの提言

大地を守る会会長
株式会社大地を守る会代表取締役社長 藤田 和芳 2009年5月13日

  「大地を守る会」の宅配で送られてくる新鮮な農産物はとにかくおいしい。「一週間に一回の宅配のお兄さんが来るのを、子供は楽しみにして待って います。」といった声をよく聞きます。また「大地を守る会」では、農家や漁師さんなど生産者の方たちと直接交流するなど、体感型コミュニケーションの機会 もたくさんあります。
 今回グローバル・エイジでご紹介する「大地を守る会」藤田会長は、生産者と消費者が互いに信頼し合う中での「日本の食の改革」を、誰もが参加しやすい形 で広く消費者、社会に提言されてきました。今ではブームとなっている「有機野菜」「安全な国産品」のための活動を、藤田会長は30年以上前から、一つひと つ積み上げる様に実践されてきました。
   「大地を守る会」の活動そしてそれを支える藤田会長の活動を、異業種ネットワーク「HINet」 (ハイネット)の会員講演でお聞きする機会を頂き、その内容をグローバル・エイジでもご紹介 させていただくことになりました。

ニューチャーネットワークス 高橋 透

 「大地を守る会」の代表を務めています。この組織は1975年に設立された団体であります。この組織のユニークなところは、市民運動団体と株式会 社を車の両輪のように廻しているところです。NGO団体としての大地を守る会は、さまざまな環境問題、食品問題にいろいろな意見を言うといった活動してお ります。例えばエネルギーの問題では原子力発電には、明確な反対の姿勢の運動をしております。現在の青森六ヶ所村の再処理工場にも反対の意見を述べており ます。学校給食の問題や地球温暖化問題、最近では遺伝子組み換え食品への反対運動など、いわゆる市民運動的な活動をさまざまなところで行なっています。

 もう一方の、株式会社としての大地を守る会は、もともと、農薬を使わないで作ってもらった農産物を都市へ運んで、現在は、消費者の玄関先まで宅配 するというビジネスをしています。週に一回、会員の人々に注文していただいて、決められた曜日の決められた時間に玄関先に食べ物を宅配するというシステム で行っています。
ほとんどは国産、日本の農家の人々が作ったもの、あるいはその農家の人々が作ったものを加工したものです。一部日本で採れないもの、香辛料の一部やコーヒー、バナナは、フェアトレードという形で海外のNGOの方々と連携しながら行っているものも一部あります。

 ここは、会員制度になっておりまして、農家の数が2千5百くらい登録しております。消費者の人々はこれも会員制ですが、 関東圏を中心に約9万。 9万1千世帯の会員がおります。その他、現在、百貨店の三越さんと業務提携しておりまして、大地を守る会の直接の会員ではないのですが、三越さんの会員 で、大地を守る会の野菜を取りたいという人を二重会員にしまして、三越さんの商品を加えながら、宅配している会員さんの数が6千なので、三越さんの会員も 加えると9万7千所帯の事業規模であります。宅配部門の年間の売上高は144億円位ですが、その他、農産加工の会社や、レストランなど5つ位会社がありま して、すべて合算しますと、現在165億円くらいの年間の扱い高になると思います。

 最近、食品の偽造表示問題や、賞味期限もれの問題が、マスコミをにぎわし、大きな社会問題になっておりますが、しかし、皮肉なことですが、そのよ うな問題が起これば起こるほど、大地を守る会の会員はじわじわと増えてるんですね。日本の消費者の食べ物に対する考え方が大きく変わったきっかけは、 2001年の9月10日という狂牛病(BSE)が日本ではじめて発見された時に、このときを境にして日本の消費者の意識は大きく変わったとおもいます。そ れ以前もたしかに有機農業運動や食品公害問題は、要所、要所で、議論されてはいたのですが、しかし2001年の9月10日のBSE問題は、大きく変えたな と思います。あそこを境にして、日本の消費者は、そうか食べ物は必ずしも安全じゃないんだ、危ないものもあるんだと強烈なイメージを植え付けられたのだと 思います。それ以降、年が明けての 雪印食品さんの偽装の問題や思い出しましても、不二家さんの事件、ミートホープさん、船場吉兆さん、赤福さんと、これ でもかこれでもかと問題が起こりました。三笠フーズさんは、本来売ってはいけないアクセス米、カビ毒や農薬が残留している汚染米まで、食品業界に流通した そういう事件がおこりました。そういう問題が続いておりまして、今、食品業界でまだマスコミで取り上げられている人というのは、時代の消費者の食品に対す る大きな変化に注目しないか、時代のおおきな変化に鈍感な企業がそのような形で摘発されているのだと私はおもいます。

 それからもうひとつ、食品業界とずれるのですが、9月10日はBSEですが、その翌日は、9月11日はアメリカの同時多発テロだったんですね。私 が申し上げるものではないのですが、同時多発テロで、世界は大きく変わったと思います。まさに日本でBSEが発生した翌日の同時多発テロで、ブッシュ政権 は、アフガニスタンを攻め、そしてイラクを攻撃しました。

 いろいろな解釈の仕方があるとおもいますが、私流の解釈の仕方をしますと、ブッシュ政権は、まさにアメリカ的な価値観、アメリカ的な文化で、世界 的なシステムを築いていきたいと思ったのではないかと思うのです。それ以降ブッシュ政権が世界に広めていったのは、まさにグローバリズムでありますし、あ る種、画一的な、アメリカを中心とする画一的なシステムを世界に広めようとやってきたなと思うのでありあます。僻みかも知れませが、例えば言語は英語、通 貨はドル、宗教はキリスト教かユダヤ教が優位、人種は白人優位、民主主義はアメリカ的な民主主義、アメリカ的な文化、そのままを世界に広めようとした。政 治も軍事もアメリカを中心とするそういう世界をずっと作り上げてきて、日本の社会もそれに追随するように世界中もそれにひきずられるように2001年以降 流れてきたと思うのです。政権は、ブッシュからオバマに変わりました。私はオバマに変わったときのキーワードは多様性だとおもいました。ブッシュ政権が抱 えていたキーワードはグローバリズムや画一性だったような気がするけど。しかし、オバマに変わった瞬間にキーワードは、多様性に変わりはじめた。オバマは ご存知のようにアフリカの黒人をルーツとする人です。ですから、ブッシュ政権のような白人を優遇する政策はおそらくとらないでしょう。それから、今回の金 融危機の問題にしても、ドルを中心とした世界の通貨体制が、どこかでほころびがではじめたと見ることもできます。
 宗教も、もうイスラム教を無視して宗教を語ることはできない。という風に見ていきますと、まさに、言語だって英語だけではない、日本語もスペイン語も中国語も必要になってきますし。通貨もドルだけではない、ユーロとか元が注目されるそういう時代になってきた。
 まさにこの事は、オバマの就任演説を聞いていても、オバマは、アメリカは、こらからは、キリスト教やイスラム教やユダヤやヒンズー教や仏教 という、あ らゆる 宗教の人々と共存しなければならないというような就任演説をしておりました。それもまさに多様性をいい始めているだなと思うのです。アメリカが変 わると、日本にもその波はすごく大きな勢いで入ってくる可能性があります。

 多様性という観点で、農業をみると、有機農業はまさに多様性ですね。画一的な農業という、農薬や化学肥料を使ってやっていく農業というところか ら、そうでなくて、ミミズやドジョウ、蛍とも共存できるような、そういう農業をしようというのが、まさに有機農業の運動でありました。したがって、私たち は、まさに多様性ということをオバマ政権がいい始めると、日本の社会にも多様性というのが入ってきて農業の有り様も、有機農業が注目されるに違いないとい うような気持ちでいるのです。

 まえふりは、そのくらいにしまして、最近、大地を守る会という組織は、望んで、昔からそういう言葉を使ったのではないですが、社会的企業という言 い方をされるようになってきました。社会的企業、ソーシャルエンタープライズという言い方をされますが、それは どうしてそういう風にそういわれるように なったかというと、もともと、冒頭で大地を守る会は、市民運動でスタートしたと申しましたが、かつての市民運動や学生運動、労働運動も、ひとつのパターン がありました。
 例えば、政府 を攻撃したり、大企業を告発したり、他者を糾弾したりという運動スタイルをおうおうにしてとってきました。 私が経験した運動も、おうおうにして、そのような告発や糾弾という方法をとりました。
 でも、この農薬や公害、環境の問題を考えたときに、そういう手法が通るのかな、と思ったのです。今から30年以上前に。もちろん、政府に交渉して、農薬 や化学肥料を使用しないような農業に転換しろと、そういう要求の仕方はあるかもしれない。それから大きな農薬の会社に、例えば電話をかけたりして、危険な 農薬を製造したり販売したりするのはやめろという道もあるかもしれない。

 でも、もっと手早いのは農家の人たちに、農薬を使わないでくれというのが一番わかりやすい運動のしかたであります。でも、農家の人たちに、農薬を使わな いでくれということが言えるのか。告発したり糾弾したりすることではこの問題は解決できないわけですね。まず、農薬を使わないということは、それでも病気 をどうやって防ぐのか、虫をどうやって防ぐのかということになりますから、天敵を利用するとか、拮抗作物を利用するとか、フェロモンを使うとか、輪作体系 をしっかり作るとか、あるいは化学肥料をつかわないということは堆肥を作る技術とか、まったく今までの科学的な農業とは違う、農業の技術を生産段階で獲得 しなければいけない。これは、きれい事を言って「あなた、使うのをやめなさい」、とか、攻撃して「使うのは間違いだ」というだけではすまない、新しい生産 の技術獲得にかかわらないと、「農薬を使わない」というその一言が言えない。しかも、それでも、ちょっと虫が食っていたり、見かけが悪かったりするような 農作物ができてしまう。または農薬を使わないという農業を仮にしたとすると、地域では農協とかそういうところとはうまくいかなくなりますし、虫がちょっと 食っている野菜などは、農協は引き取ってくれないですし、市場も引き取ってくれない。そうすると、仮に新しい生産技術を確保して、無農薬、有機農法で野菜 を作っても、農村から都市に運ぶ手段がないわけですね。つまり、自分たちでやらなくてはいけない。生産の技術も確かに必要ですけれども、その次は新しい流 通をつくる、それを確保するということにかかわらない限り、無農薬の大根一本すら農村から都市に運べないわけです。それから最後に、消費者の意識ですね。 消費者側が、虫が食っていても安全だからいいわよ、とか、少々見かけが悪くても大丈夫よ、とか、曲がったきゅうりでもおいしいからいいよ、とか、つまり従 来のスーパーや八百屋さんでの野菜に対する価値観が、全く変わらないと、その野菜は受け入れてもらえないです。つまり、ある意味文化が変わらないとこの無 農薬栽培の野菜というのは消費者のところへ行っても買ってもらえない。つまり、生産の現場、流通、消費というこの三つの段階が同時に変わらないと、たった 一本の無農薬の大根ですら、生産し、流通することができないわけです。これをやり遂げるということが、まあ、私たちはそれを、たった一本からでも社会を変 えることができるんだ、という風に思ったわけですね。つまり、社会が全部、生産の技術もそうですし、流通のシステムもそうですし、消費者の文化・意識も変 わるということは、これはまさに、小さな革命だ、というふうに思ったわけです。

 我々のそのときに使った合言葉は、「100万回、農薬の怖さを叫ぶよりも、まず一本の無農薬の大根を生産し、それを流通して、さらに消費してみる」と。観念的な運動をするよりも、実践的な運動をしよう、ということが私たちの合言葉だったわけです。
そ う考えていくと、ただ単に、告発したり、糾弾したりする運動とは変わってまいりますので、しっかりしたビジネスをし、生産者にもちゃんと代金を払い、そう いう流通にかかわった人たちにも生活をそこでやっていけるような体制をつくる、という意味では、株式会社をつくるということには何の躊躇もなかったわけで す。それで株式会社をつくろうと思った。ただ、株式会社はつくるけれども、農家の人たちや消費者の人たちに株主になってもらおうというふうにして、株式会 社を作ったわけです。
 現在株主の数は21,000人以上います。そういう小さなお金を農家の人や消費者の人たちに出してもらって、株式会社をつくりました。

 余談になりますけれども、この株式会社大地を守る会というのは、現在でも借金をしておりません。無借金経営です。まあ設立当初から市民運動ということを 背景にしながら株式会社をつくりましたので、政府に異議申し立てをしたり、地元では農協と対立構造を、やむを得ずそうなってしまったりですね、それから原 子力発電に反対する、といったことを内側に抱えながらのビジネスでありましたので、どこかにお金を借りたり、補助金をもらったりすることは自分たちの自立 を阻害してしまうというふうに考えて、自立するということを意識して、歯を食いしばって、借金をしないように努力しました。そのこともあって、ずっとこの 間は黒字できておりまして、借金をしておりません。数年前に物流センターが火事になって一時的に赤字という年もありましたけれども、まあ、それでも一応は 健全に経営しているんけれども、毎年株主総会をやります。毎年250人くらいの株主の人たちが株主総会にお集まりになります。いろんなご意見をいただくの ですけど、数年前に、ある株主が、「この会社は今年も黒字だ。こんなに儲かっているじゃないか。なぜ配当をしないのか。」というふうに質問をされたことが ございます。私は社長ですので、私が答えようかと思ったのですけれど、別の株主の方が立って、このように、自分の意見を言いました。「あなたは何のために この株式会社大地を守る会の株主になられたのか。もともとこの会社は設立のときに、日本の第一次産業を守るために、株主になってくれませんかと呼びかけら れて、あなたは株主になったのではないのか。日本の環境を守るために、投資してくれませんか、と言われて株主になったはずだ。消費者の健康を守るために、 株主になりませんかと呼びかけられて、株主になったはずだ。そのことを忘れたのか。個人的な、配当がほしくて株主になるということではなくて、もともとこ の会社はそういう、第一次産業を守るといった社会的な信念を達成してほしいということで、みんなが出資して作った会社なので、できればそういう意見は言わ ないでほしい」というふうに株主同士の意見がございまして、結果的には配当はしないで来ているわけです。こういうことは、株式会社大地を守る会では、こう いう問題がいつもおこりました。自分たちの社会的な使命、ミッションは何なのかということを、いろんなところで確認しあいながらこの株式会社を運営してき たわけですね。

 話はいきなり飛びますが、去年の暮れから正月にかけて、イスラエルがパレスチナのガザを激しく攻撃しました。大地を守る会は、ほとんどが国産の野菜を 扱っているのですけれども、国内で取れないものは海外からフェアトレードでいただくということになっていますが、オリーブオイルをパレスチナから買ってい るんですね。オリーブオイルをパレスチナからもってきて、大地を守る会の会員の人たちに買ってもらっています。今回のガザに対する攻撃があったときに、パ レスチナの人たちから毎日のようにメールが来て、現在こういうことになっているということを、たくさんの死者が出て、たくさんの傷ついた人たちが出て、食 料もないし衣料品もない、助けてほしいというメールが届きました。我々としては、何かしなければいけない、ということを考えてですね、これはイスラエルが 悪いとかハマスが悪いとかというようなことではなくて、目の前に現実に傷ついている人たちがいて、しかも自分たちが毎日食べているオリーブオイルを作って いる農民、生産者のパレスチナの人たちからの血の出るような願いが届いているので、消費者の人たちに、お願いをしました。パレスチナの人たちを支援したい と。攻撃されていない西岸地区で食料を集め、生活物資を調達し、簡単な医薬品も調達して、ひとつの小さな箱にいれて、何箱も何箱もガザに運び込もうという ことを決めて、もちろんそのためには国連の機関を使うとか、イスラエルの許可がいるとか、いろんなことの手続が必要なんですがとりあえずそれを全部やっ て、ガザに食料品と薬品を届けるということにしました。大地を守る会の会員に呼びかけましたが、1口500円で呼びかけをしたのですけど、わずか1週間 で、8400口(人)くらいのカンパが集まって、総額420~430万円くらいのお金が集まりました。そのお金を基にして、西岸地区からガザに、救援物資 を送ることにしたんです。僕は、大地を守る会というただ単に農産物を作ってもらい、それを売ったり買ったりするとか、作ったり食べたりするという関係だけ ではなく、この大地を守る会の会員になっている人たちが、そういうことを通じながら、日本の農業のことを考えたり、環境のことを考えたり、もっと、海を越 えて世界の平和のことを考えるたりするという人たちが、こんな形で集まっているんだということに、今回はすごく感動したんですね。そういう、社会のために やっている、社会的な企業というのはこういうことなんだと、こういうことにみんながすぐ共感し、困っている、苦しんでいるという人にすぐ手を差し伸べなが ら、ともに生きているということを確認するというようなことが、大地を守る会に集まっているんだなと、すごく感動したわけです。

(次号に続く)

藤田 和芳

藤田 和芳

・所属・役職
大地を守る会会長、株式会社大地を守る会代表取締役社長。アジア農民元気大学理事長、100万人のキャンドルナイト呼びかけ人代表、ふるさと回帰支援センター理事、食料・農林漁業・環境フォーラム幹事、日本NPOセンター評議員。
・略歴(『ダイコン一本からの革命―環境NGOが歩んだ30年』著者紹介より抜粋)
1947年岩手県に生まれる。食と環境のつながりにいち早く注目し1975年、環境NGO(市民団体)「大地を守る会」設立。日本で最初に有機野菜の生 産・流通・消費のネットワークづくりをしながら、経済合理化を善とする文化状況に異を唱え、さまざまな運動を展開する。1977年には社会的起業のさきが けとなる「株式会社大地(現・株式会社大地を守る会)」設立。ロングライフミルク反対運動、学校給食運動、「100万人のキャンドルナイト」、「フードマ イレージキャンペーン」など、市民参加による提案型の運動を着実に進めている。
・著書・訳書など
『ダイコン一本からの革命―環境NGOが歩んだ30年』藤田 和芳著、工作舎
『農業の出番だ!―「THAT’S国産」運動のすすめ』藤田 和芳著、ダイヤモンド社
『いのちと暮らしを守る株式会社―ネットワーキング型のある生活者運動』藤田 和芳共著、学陽書房

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