「グローバル・エイジ」のリーダーからの提言

ライフネット生命保険会社 代表取締役社長 出口 治明 2009年10月14日

■ライフネット生命の4つの経営方針

野口悠紀雄さんは戦後の経済体制を1940年体制とし統制経済と呼んでいます。大蔵省が金融商品の中身を決め、銀行、証券、保険会社はただ商品を販売していました。この政策は大成功し、1992年に日本は世界第2位の経済大国になりました。その後、金融自由化に路線変更し郵政民営化や金融ビックバンが起きました。日本の生命保険会社は金融自由化に伴い各社が比較され競争することは嫌がり、保険に特約をつけて複雑化するようになりました。同時に保険料をアップすることに成功したのです。しかし複雑化し過ぎた結果、保険会社自身も保険の中身が分からなくなり不払い問題につながってしまったのです。
 
ライフネット生命にはビジョンの他に経営方針が4つあります。1つ目は「真っ正直に経営する」ことです。お客さまから何年も先に保険金の支払いがある保険を、開業して決算を一回経験しただけの会社を信頼して加入してよいかというご質問を受けることがあります。例えるならライフネット生命は初任給をもらったサラリーマンと同じです。信用はありません。だからライフネット生命が最初に用意した2つの商品は掛け捨てにしています。金利が低い時代、掛け捨てなら業界のセーフティネットである生命保険契約者保護機構によってほぼ100%保護されます。ライフネット生命の運用の大部分は国債など高格付の円債のみなので昨年の米国発の金融危機でも無傷でした。

経営方針の2番目は「生命保険をもっとわかりやすく」です。もっとも条文が少ない約款の実現や支払事由の明確化、ウェブサイトの工夫もしています。

経営方針の3番目は「生命保険を安くする」です。ライフネット生命は業界最低水準の割安な保険料を実現しています。保険料を安くするのは保険会社の義務と思っています。
生命保険は4つの市場があります。子育て世代向けでお子さんが大学に入ればいらなくなる「死亡保険市場」、年金や介護保険からなる「生存保険市場」、わが国独特の法人税制に着目した「経営者保険市場」、そして「医療保険市場」です。ライフネット生命は定期死亡保険である「かぞくへの保険」と終身医療保険の「じぶんへの保険」という2種類の商品しかありません。ライフネット生命は資本金132億円、従業員は60人程度とベンチャー企業としては大きいですが、何兆円という自己資本があり何万人もの従業員がいる日本の生命保険会社に比べれば小さな存在です。4つの市場に全面展開するよりは2つの市場にしぼったほうが良いと考えました。

経営方針の4番目は「生命保険を、もっと、手軽で便利に」です。ライフネット生命のコンタクトセンターは平日の夜10時まで営業しています。他の会社のコンタクトセンターは夕方17時や18時でテープになってしまいますが、昼は仕事をしていてやっと時間ができる夜に連絡できるよう夜までつながるコンタクトセンターにしています。お客さまが生命保険に何を望んでいるか調査しましたが、1位は保険料が安くなること、2位は商品がシンプルでわかりやすくなること、3位が各社の保険商品を横並びで比較できるようになることでした。当然の結果と思います。ライフネット生命をスタートして一番嬉しいことは、開業以来ずっと契約が伸び続けていることです。お客さまに私たちの思いが通じているのだと思っています。
また次に嬉しかったのは、FPや保険ジャーナリストへのアンケートで、自分が入りたい保険ランキングの1位に選ばれたこと*です。厳しい目を持つ保険のプロの方々にも評価していただき、非常にありがたく思います。
*株式会社ダイヤモンド社発行「週刊ダイヤモンド」の2009年3月14日号特集企画「保険のムダ 総点検」

■ライフネット生命、今後のチャレンジ

このようにお客さまや保険のプロの方々に一定の評価をいただいているライフネット生命ですが、課題も沢山あります。今後のチャレンジとしてはなんと言っても認知度の向上と、新しい商品・サービスの開発が挙げられます。調査によるとライフネット生命が開業したことを知っている人は6.4%にとどまっています。広告、宣伝をすることで保険料が高く設定されてしまうので、ライフネット生命は積極的に広告、宣伝をやりません。その代わり私は常に宣伝用の大きな名刺(ポストカード)を持ち歩いています。費用をかけずに知名度を向上するのは難しいことです。私は週1回、年に50回はこのような講演会でライフネット生命を紹介させていただくことを自己のノルマとして頑張っています。
商品サービス開発については、他の生命保険会社がやっていることと同じことをしても勝てません。そこでお客さまのニーズとライフネット生命がやりたいことが重なる部分について集中的に商品を開発するつもりです。

■人間の99.9%は思うように生きられないのだから

なぜ還暦を迎えた私が保険会社を設立したかというと、本当に偶然に谷家さんという投資家の方から声をかけられたことから始まりました。私は「何歳でこれをしよう」という人生の目標は決めていません。人間の99.9%は思うようには生きられないのです。川の流れに身をまかせるようにするのが一番自然なのではないでしょうか。私は60歳を過ぎてベンチャー経営ができとてもラッキーだと思っています。これは宝くじに当ったようなものです。せっかく当ったのだから、日本の生命保険と30年以上も付き合ってきた自分が考える理想の保険会社を作りたいと思っています。そうでなくては宝くじに当たりたいのにはずれてしまった方々に申し訳ないです。ライフネット生命の起業もお話を伺った時、これは運命と思い30分で決断しました。同時にそれまでの古い自分は捨てようと決意しました。ライフネット生命の起業メンバーも日本生命の部下を連れてくればスムーズに事が運ぶのでしょうが、あえてその選択肢は取りませんでした。そうすれば日本生命の企業文化を引き継いだ日生ミニ版をつくるに過ぎないからです。そこで一緒に起業するパートナーは先の谷家さんに選んでいただきました。保険会社での経験がない若い人というのが条件でした。そして知り合ったのがバーバード卒業を間近に控えた岩瀬大輔くん(現ライフネット生命副社長)だったのです。
 

 *2008年5月18日にウェブサイトを公開し、営業を開始した際の様子

 
若い人達に伝えるメッセージとして私の心に残っているのは、キッシンジャーの「人間はワインと同じ」という言葉です。人間は気候と土地の産物なのです。土地や先祖を誇りに思うことが大切です。時間があれば地理や歴史を勉強し、世界を歩かないと人間同士の対応ができないと思うのです。若い人達にはいろいろな人に会い、沢山の本を読み、世界中を旅することが人生を豊かにすると伝えたいです。20-40代なら自分に投資をし、自分の価値を高めることが最もリターンが高いのです。頭と体は同じです。良い物を食べれば良い身体ができるように、いろいろな知識を入れれば頭の栄養になり豊かな人生を送る上で良い判断ができるようになります。
生命保険はロスファイナンスの一種です。パートナーが突然この世を去り、その人の収入が途絶えます。家族の将来がこれからというときにどうするか。資産がある人以外は一時金でなんとかしのがなくてはなりません。生命保険はその時のための必要最小限で良いのです。私はどこよりも正直な経営を行い、どこよりもわかりやすくシンプルで安くて便利な商品・サービスを、新しいイノベーションにチャレンジすることを通じてお客さまに提供していきたいと考えています。
(おわり)

出口 治明

出口 治明

・所属・役職
ライフネット生命保険株式会社代表取締役社長
・略歴
1944年 三重県出身。大学を卒業後、日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に東奔西走する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。 2005年より東京大学総長室アドバイザーを勤め、2006年に準備会社を設立。2008年より現職。
・著書・訳書など
『生命保険入門』 2004年6月、岩波書店
『生命保険はだれのものか』2008年11月、ダイヤモンド社
『直球勝負の会社』2009年4月、ダイヤモンド社
保険トレンドブログ 『デグチがWatch』 http://www.lifenet-seimei.co.jp/deguchi_watch/index.html
 
ライフネット生命保険株式会社URL http://www.lifenet-seimei.co.jp/

ライフネット生命のことをより多くの方に知っていただくために、さまざまな場所で講演会を行っています。
20名程度の小規模な勉強会でも結構ですので、ぜひお声掛けください。

お申し込みは以下のURLから受け付けております。
https://www.lifenet-seimei.co.jp/app/sp/wif/e/inquiry

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