「グローバル・エイジ」のリーダーからの提言

台北駐日経済文化代表処 経済部次長 周 立(CHOU Li) 2010年12月8日

2010年11月19日に弊社にて開催いたしました中国・アジアビジネス夜間セミナーにおきまして、「今後の東アジアにおける経済環境変化とビジネス戦略」について、台北駐日経済文化代表処 経済部次長 周 立(CHOU Li)氏にご講演をいただきました。
今回、ご講演内容を是非皆様にご紹介させていただきたいと思います。

ニューチャーアジア 小川 光久

台北経済文化代表処で経済部次長を務めている周立です。代表処というと日本の方には聞きなれない言葉かと思いますが、事実上の台湾の大使館といったところとご理解ください。
 
1972年に日本と台湾で国交がなくなってから、公的な関係はなくなりました。政府間の交流はなくなりましたが、民間の人々の往来、経済の交流のために、台湾側と日本側がそれぞれ亜東関係協会や交流協会を作って、準政府のレベルでの交流を続けてきました。当初は「代表処」という名前ではなくて、この名前を使い始めたのは1990年代でした。
 
台湾と中国の間に、今年2010年6月29日に重慶でECFA(Economic Cooperation Framework Agreement)が結ばれました。いわゆるFTA(Free Trade Agreement)に相当します。これは東アジア初めてのFTAになります。一般的に、ごく短期間でこのような取り決めが交わされることはなかなかありませんが、急ピッチで交渉し、1年ちょっとでまとめました。差し当たって早期に合意できるところからECFAという枠組みを決め、アーリーハーベスト(early harvest)項目をお互いに提供しました。つまり免税するというようにしたわけです。それが今回のECFA締結という成果になりました。これにより、対中輸出が活発化することが予想されます。
 
今回のECFAをまとめた馬英九政権が台湾でできたのは2008年5月でした。2000年から2008年までは台湾の独立性を強調する民進党政権でした。この民進党政権の間は台湾も中国も交流に消極的でした。互いに政府間の接触はほとんどなかったと言えます。一方で民間経済は1980年代からずっと交流し続けてきました。それはもう止められない流れとなっていました。
馬英九政権は2008年以降、5回の会談で最終的にECFA締結にこぎつけました。早期に妥結できるところから項目を順に作っていったわけです。調印は6月29日でした。中国は国内の承認は必要ありませんが、台湾は立法院、つまり国会の承認が必要です。承認がおりたのが9月12日でした。
 
関税の引き下げは来年2011年の1月から3年間というスケジュールで実施されます。中国側は539の品目が対象になります。台湾側は267の品目です。台湾の中国からの輸入総額に占める割合は10%、中国の台湾からの輸入全体に占める割合は16%となります。実際の比率はそんなところです。中国は台湾の馬英九政権をサポートしたいという意味もあるでしょう。
今の台湾は産業の空洞化に直面しています。競争力のないものはどんどん外に出ていくという意味では、それ自体は必ずしも悪くもないわけですが、雇用について考えると問題もあります。今年に入ってデモもありました。今後は労働集約型の産業では勝てないというのは日本と同じです。
 
中国から台湾への観光客も増えてきています。これまで一番多いのは、日本からの観光客でした。年間100万人くらいが台湾に来ていました。2008年中国住民の台湾観光が解禁され、2009年に約60万人の中国からの観光客が台湾を訪れました。その勢いは止まらず、今年は中国からの観光客数が日本を上回るでしょう。
台北から上海には約80分で行くことができます。しかも週に370便の直行便があります。実は台湾から中国にはもっと多くの人が行っており、毎年400万人以上にのぼります。
台湾と中国の交流はずっと以前からあります。1980年代には台湾ドルの切り上げ、人件費の高騰で、台湾の企業は徐々に生産拠点を海外に移していきました。当時台湾は李登輝政権で南進政策を掲げていました。ASEAN(Association of South‐East Asian Nations)を海外生産拠点として勧めていました。たとえばフィリピンなどが対象でした。アメリカがフィリピンに軍事基地を返還した後、工業団地の建設が増えていたのです。しかし経済の流れは人為的に止められるものではありませんでした。中国は鄧小平氏の開放政策によって発展しつつありました。それを見た台湾の資本が中国に出て行ったのです。
 
台湾の人口は2300万人です。労働力人口は1000万人強ですが、中国での台湾系の企業の雇用人口は台湾の労働人口と同じくらいになります。たとえばみなさんご存知のように『FOXCONN』という会社は80万人くらいを中国で雇用しているといわれています。深圳には40万人規模の工場もあります。中国には他にも世界的に有名な台湾系の会社がたくさんあります。
あまり日本のマスコミに報道されませんが、2008年の中国の輸出企業トップ10のうち、台湾系が6社を占めます。2009年は7社です。ここからも台湾と中国の緊密さがお分かりいただけると思います。
 
台湾は世界的に日本と最も親しい国の一つです。日本の近隣を見ると、ロシア、韓国、中国など、多くの国が領土問題などで日本と揉めていますが、台湾の国民感情は日本に親和的です。
日本と台湾の関係は1895年(日本の台湾占領年)から始まっています。1945年に戦争が終わるまでの時代、たくさんの日本人が台湾に来ました。戦後の台湾は1960年代1970年代、工業の生産拠点として日本の経済を支えてきました。以降は中国でも生産ができるようになって、日本企業も中国に行くようになりました。
 
ただ、中国で日本企業と付き合っているのは台湾の企業も多くあります。昔から台湾は日本の技術を導入してきました。それを獲得して中国に行っています。日本から直接中国に行くのは、いわゆるチャイナリスクも高くなります。歴史的な問題、知財の問題などがあります。その点、台湾は日本と価値観も近いです。ビジネスのやり方も近いといえます。100年以上の付き合いがある、信頼できるパートナーです。
日本人が中国に行って、言葉の問題や労務管理の問題、政府との交渉などで困るよりも、台湾人と協力したほうがいいことがあります。たとえばファミリーマートやセブンイレブンなどは、北京など北のほうは日本から直接経営を行なっていますが、上海など南のほうは台湾経由で行なっています。実際、北京のほうはあまり成功しておらず、南のほうで収益を上げています。台湾の幹部を使いながら、中国の生活習慣にあったビジネスを展開することができているのです。
 
日本から台湾経由で中国に行くという日台のアライアンスは、古いようで新鮮なやり方です。皆さんのビジネスの成功にもつながるのではないかと思います。日本と台湾の経済関係は緊密です。日本企業は台湾の強みを活かすことで、中国でのビジネス展開に大いに期待できるのではないかと考えています。

周 立(CHOU Li)

・所属・役職
台北駐日経済文化代表処 経済部次長

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