新商品・新事業開発「バリュー・コンセプトメイク」

ニューチャーネットワークス 福島 彰一郎 2008年10月22日

■ 生活者を今まで以上に深く理解することの必要性

 企業側は顧客ニーズに合った新商品を開発し、同カテゴリーの競合他社への差別化、商品ラインナップやバージョンアップを行ったつもりでも、生活者 は企業の意図通りに振り向いてくれません。むしろ、同カテゴリーではなく、他カテゴリーの商品に生活者を奪われていることがあります。これは生活者のニー ズを満たすための手段が同カテゴリー内の商品に限らないということです。生活者にとってはニーズを満たせればよいので、カテゴリー横断的に多様な商品・ サービスの選択肢をもっています。企業側はこの事実を忘れて、同カテゴリーの中だけで市場調査・分析を行っていることが多いようです。

 また最近のヒット商品の傾向を見ると、経営会議を通さない現場スタッフの企画がヒットしている例も見られます。生活者に常に接している現場スタッフの商品アイデアへの目利き力は、生活者から離れた場所にいる経営トップ層よりも優れていることがあるのです。

 市場調査レポートなどの客観データだけをベースにした企業寄りの商品開発のアプローチでは、生活者にとってインパクトのある商品は生まれにくいよ うです。こうしたことから企業は生活者のことを今まで以上に深く理解する必要があります。その上で、自社ならではの商品開発を目指すことが重要なのです。

■ 商品開発におけるフィールド調査の効果

 生活者を理解するためには様々な調査・分析手法がありますが、優れた手法は優れた商品アイデアを発想するための必要十分条件ではありません。調 査・分析を効果的に行うためには、優れた仮説がなんといっても必要です。初期段階における仮説が陳腐な内容だと、仮説の内容をレベルアップさせるために膨 大な調査・分析の労力がかかります。優れた仮説からスタートできれば、少ない労力で内容のレベルアップが期待できます。

 では、どのようにしたら優れた仮説が出せるのでしょうか。弊社のコンサルティング・研修の経験上では、商品企画担当者自らが生活者の利用シーン・ 購買シーンを直接観察したり、あるいは商品企画担当者が自ら生活者となり利用シーン・購買シーンを体験したりする「フィールド調査」が最も効果的と考えます。

 これは、客観的に顧客を分析してばかりいるのではなく、自らも主体となって生活者の利用シーン・購買シーンという「文脈」または「状況」に入り込むということです。それによって客観的な調査・分析だけでは分からない、重要な情報を豊富に入手することができます。

 例えば、顧客がどのようなベネフィットを感じてスナック菓子を買っているか調査するとします。その際に顧客アンケートをとったとしても、出てくる 結果は活字やデータの「形式知」です。「おいしい」という言葉一つとっても、どのような「おいしさ」なのかは正確には理解できません。味覚に関することを いくら言葉で説明されても、自ら食べてみないと理解できるはずがないのです。

 実際に生活者の「生活」に入り込むことによって、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚という五感を通じて調査レポートの活字やデータでは見えにくい「暗 黙知」の情報を認識することができます。この「暗黙知」こそ、新しい商品や事業のヒントになると言えます。特に、調査レポートなどで報告されていないよう な生活者の新しい変化などは、新商品発想のための有益な暗黙知の情報となりえます。

■ 「顧客と企業」との共創・創発を狙った事業創造パワーアップ・セミナー開催

 2年ほど前から、弊社では「パワーアップ・セミナー」を定期的に開催してきております。事業創造・組織変革のための共創・創発を切り口にしたマネ ジメント手法を、ケース演習を通じて実践的に参加者の方々に理解していただく内容です。これまでに多様な業界の第一線でご活躍されているメンバーを中心に 参加していただくことで、創発の現象が起こり、業界の枠を超えた独自性あるコンセプトの企画づくりが実現できました。

 しかしながら、ビジネスにおける共創・創発の可能性を考えたときに、異なる業界間の創発は1つのパターンにすぎません。共創・創発には、「顧客と 企業」「顧客同士」「企業と社会」などの他のパターンもあるはずです。この中でも特に、事業創造において重要なのは、「顧客と企業」の共創・創発でしょ う。例えば、顧客との対話や顧客の利用シーンや購買シーンの観察から新しいニーズそのものを創り出す場合などが考えられます。

 2008年6月に開催したセミナーでは参加していただいた多様な業界のメンバーに、「顧客と企業」の共創・創発を狙ったフィールド調査を実施して いただきました。テーマは、某メーカーの店舗コンセプトの企画です。セミナー期間も通常の1日から2日間へ拡大し、初日の午後をフィールド調査の時間に当てました。場所は、平日午後の渋谷です。

 4、5人で1チームを形成し、まず調査で検証すべき事業コンセプト仮説および調査計画を立案していただきました。そして調査のための備品(デジカ メやメモ、費用5000円など)をもって調査にでかけていただきました。フィールド調査後は、夜に懇親会を行います。そこでフィールド調査の簡易報告も行 い、撮影した写真や購入した商品などについて説明していただきました。食事をしながらのくつろいだ雰囲気で、各チームからの発表と意見交換によりさらなる 創発を狙いました。それに基づいて、セミナー2日目では、事業コンセプトを企画していただきました。

 

■ セミナー参加者からの感想

 セミナー後、参加者の方々から次のような感想をいただきました。

 「現場にいってみて、自分で体験して初めてわかる暗黙知が意外と多い。それがアイデア発想につながる。机の上で考えるよりも、多くのリアリティあ る面白いアイデアが出た」「通常のセミナーでは、他企業の参加者とは机の上で議論するくらいはあるが、一緒に行動することはない。一緒に行動することで自 分にない視点・知識を得られた」「平日の昼間に、渋谷に行くことはほとんどない。会社で仕事をしている時間帯。自分にとって“非日常”の体験ができた。し かし、顧客にとってはこれが日常であり、いかに自分が顧客のシーンを見ていないかということが実感できた」 「フィールドに出ると周辺情報も入ってくるので、新しい気付きが得られて面白い」「環境を変えると、アイデアがどんどん出てくる」

 思い返せば、我々は机の上だけで企画書を作ってはいないでしょうか。「陳腐なアイデアしか出ないなあ」と限界を感じたら、オーソドックスですが、 フィールド調査が効果あるようです。いろいろな人やモノとの共創・創発により、クリエイティブなアイデアが生まれるかもしれません。

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