テクノロジーマネジメント「日本型オープン・イノベーション」

ニューチャーネットワークス 高橋 透 2008年9月10日

 バブル経済崩壊以降、日本における資本主義的な考えの浸透、ITによる情報伝達スピードの増大、仕事の流動化などが起こってきた。それにより会社 という組織集団に対する個人の継続した献身的努力が必ずしも報われるとは限らなくなった。それは、なにも最近会社に入社した新入社員だけでない。中間管理 職はもとより、幹部社員として選抜されたエリートや退職を間近にしたベテラン社員まで同じような認識をもっているのではなかろうか。

 そのような組織と個人の関係の大きな変化を象徴する社会的現象の一つに“M&A・アライアンス”がある。「会社が外資系企業に M&Aされて、人事給与制度や組織が大きく変わってしまった」。「競合他社と合併し、長年教育した多くの社員が会社を辞めてしまった」。 M&Aを経験した企業ではこのような話をよく聞く。企業を、あたかも自分の家族のように考えていた時代はすでに終わってしまったのであろうか。

 M&A・アライアンスとは、めまぐるしく変化する経営環境に対応していくために、企業という人の集団に対して、所有者の変更、他者との共 有といった考えを当てはめたマネジメント手法の一つである。企業の生産性を高めていくために、得意分野に徹底集中したり、会社や業界単位で大胆に分業を見 直したりする戦略的取り組みとも言える。派遣社員の活用やアウトソーシングなども同様の考えの取り組みである。M&A・アライアンスは現在の企業 の競争環境の中では必要不可欠の方法であり、今後もますます増加していくと思われる。

 そのような流れの中で、日本企業に働く人の多くが「自分たちの会社での位置づけ」に対し敏感になり、「まずは自分の仕事や生活を守る」「まずは自 分の関わる組織の業績の維持が大切」などといった「個」を中心として考える傾向が強まっている。それ自体は決して悪いことではないが、「部分としては生産 性が高くなったが、会社全体としてはかえって競争力が低下した」「自分の仕事の生産性は高まったが職場としての楽しさはなくなってしまった」という声も多 く聞かれる。

 今必要とされているのは、M&A・アライアンスに象徴されるような「個」の生産性を追求した変革手法や価値観を、いかに全体を活性化させ る方法としてとらえなおすかではなかろうか。そこで本コラムでは、発想を変えて、「新たな価値の共創・創発」というコンセプトを切り口にM&A・ アライアンスをとらえてみることにした。

 「新たな価値の共創・創発」では、「個」はすべて多様で、独自の情報やアイデアを自発的に発信する単位として考える。それぞれの「個」が自発的に 発信した情報やアイデアが相互作用を繰り返し、自己組織化され一つの大きな方向を創り出していく。そして全体としてこれまでにない価値が創発されていく。 本コラムでは、M&A・アライアンスを、「個」の生産性を追求したプロセスと考えるのではなく、「個」同士の共創活動による新たな価値の創発とい う視点で考えていきたい。

 そのためには「新たな価値の共創・創発」を切り口にしたM&A・アライアンスとはどのようなものか再定義しなければならない。さらには、 M&A・アライアンスを進めるにあたって、相手先とのコミュニケーションや交渉の体制、進め方を見直し、共創活動を行うための相手との関係構築の 方法を見直していく必要がある。

 本コラムではまず、「新たな価値の共創・創発としてのM&A・アライアンス戦略」に関して(株)ニューチャーネットワークス代表取締役の高橋透が、数回にわたって述べていきたいと思う。

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