組織革新「ブレークスループロジェクト」

ニューチャーネットワークス 張 凌雲 2008年11月5日

■ 環境変化に柔軟に対応できる事業戦略計画

 サブプライムローン問題に端を発する世界的な金融危機、資源価格の高騰、新興国経済の失速など、事業環境は日々、目まぐるしく変化しています。需要の変動が激しく、不確実性の高い環境では、これまで以上に戦略計画の精度の高さが求められます。

 景気が上向いているときは、戦略計画の精度が多少粗くても結果として成果を出すことができるため、実行プロセスの是非が問われることはありませ ん。しかし、今日のような環境下では、計画達成に大きく影響を与える要因を網羅的に把握し、それに対する対応策を事前に立てておかなければ、不測の事態が 生じたことによって目標達成が難しくなります。事業戦略の計画を立案する時において、PDCAを確実に実施することで環境変化を事前に予測し、柔軟に対応 できる計画を作り上げることが必要となります。

■ ボトムアップ・トップダウンによる戦略計画立案

 多くの企業における戦略計画の立案は、本部スタッフが主導となって大まかな方針と目標を決めた後、各部門に落とし込み、具体的な予算数値を作成し ます。各部門で作成された内容は、一見すると効果的で実行可能であるように見えますが、その多くは、作成スタッフの過去の経験から導き出されたものです。 そのため環境変化を捉え、競合に勝つための戦略的要素が不十分な場合が多くあります。

 そのような計画が立案されてしまうのはなぜでしょうか。理由として考えられるのは、本部から落とし込まれた数字を確実に達成することが重視される ためです。もう一つの理由として、戦略計画の骨子がスタッフ部門のみによって作られることにあります。現場で生じている変化を捉えきれておらず、リスクの 高い成長戦略の種に対する投資や、既存の枠組みを超えた取り組みといった、挑戦的、意欲的な計画の立案に躊躇してしまうからです。

 これらの解決策の一つは、戦略計画の立案に先立って、経営トップが戦略計画立案のメンバーに対して、明確な事業ビジョンや今後の戦略を示し、今後の事業の方向性についてトップと計画立案のメンバー間の考えを共有することです。

 解決策の二つ目として、初期段階から多様なメンバーで計画立案をすることが挙げられます。特に顧客に近い現場レベルの人材が戦略計画立案に積極的 に関わることが重要になってきます。日々、最先端で顧客と接して市場のニーズと変化を捉えている現場メンバーを加えることで、市場競争力があり、実践的な 内容の戦略計画とアクションプランをボトムアップで立てることが可能となります。

 三つ目として、戦略計画は、一度に精緻な数字が入った内容のものを作る必要はないということです。ある程度戦略計画がまとまった段階において、会 社の中長期的な戦略、経営トップの方針とあっているかを確認する必要があります。そのため、経営トップと戦略計画とアクションプランの目標と内容につい て、すり合わせる場を設定します。

 経営トップに対する戦略計画とアクションプランの提示は、閉じられた場で行うのではなく、全社の役員や各部門の主要のメンバー集まったオープンな 場で行うことが望まれます。オープンな場での戦略計画とアクションプランの議論によって、経営トップの考えを全社的に共有することができるからです。計画 立案のメンバーに関しては、目標とアクションプランを経営トップや他のメンバーの前で宣言することで、目標達成への緊張感を生み出すことになります。

 

■ 戦略計画の達成に向けた早期着手 -ブレークスループロジェクトの実施-

 戦略計画の方向性と、主要なアクションプランが固まったら、計画実施前に試行的にアクションプランを実施することで、戦略計画の精度を高めていき ます。この時、ブレークスループロジェクトとして、短期間でストレッチした目標達成を目指すことで、従来の仕事のやり方、考え方の枠を超えた活動のアイデ アを引き出すことにつながります。ブレークスループロジェクトの実施によって、戦略計画の妥当性の検証、実施結果を踏まえて戦略計画とアクションプランの 修正のフィードバックを行うことができます。

 プロジェクトは、全てのアクションプランが対象になるのではなく、戦略計画の中で目玉となっているもの、業績に大きな影響を与えるテーマを取り上 げます。テーマの選定にあたっては、組織のリソース配分などもあり、基本的に各部門に委ねます。しかし、ブレークスループロジェクトでは短期的成果を求め るため、出されたテーマは、目標のハードルが低い、既に実践しているなど、比較的取り組みやすいテーマが挙がる傾向が生じます。そのため、テーマ決定にあ たっては、本部スタッフ、部門の担当者と十分に検討する必要があります。

■ ブレークスループロジェクトによる成功モデルの実現

 ブレークスループロジェクトを成功させることによって、戦略計画で掲げた目標への達成に自信がつき、さらに高い目標設定とそれを実現させる自信を組織に持たすことができます。ブレークスループロジェクトを成功させるポイントしては、以下が挙げられます。

  • (1)プロジェクト実施の目的の確認と共有
  • (2)具体的な目標設定と詳細な実施計画
  • (3)組織横断的な取り組み
  • (4)危機意識を持った取り組み
  • (5)明るい雰囲気で進める

(1)プロジェクト実施の目的の確認と共有

ブレークスループロジェクトは、必ずしも目標数値を達成することが最も重要なことではありません。戦略計画のアクションプランを実現させるために、どこに問題があり、どこに機会があるかを見つけることが重要です。

(2)具体的な目標設定と詳細な実施計画

プロジェクト実施者が他人事にならないように、実施内容と担当者ごとの目標を明確に設定します。ブレークス ループロジェクトは、通常8週間~12週間を1サイクルで行うため、実施計画は「週単位」ではなく「日単位」で管理し、日々、誰ができて誰ができていない かがわかるようにします。

(3)組織横断的な取り組み

ストレッチした目標を短期間で達成するためには、従来のやり方を踏襲していては実現できません。特に関係部署 との連携が上手くいかなければ、スピードある取り組みは望めません。ブレークスループロジェクトの実施期間は、組織の壁や利害を出来る限り取り払い、目 的・目標の達成に向けて必要なリソースがいつでも使える環境を作ります。

(4)危機意識を持った取り組み

「ブレークスループロジェクトが上手くいかなければ、今後の成長は望めない」と各メンバーに認識させ、組織的な一体感や目標達成をどん欲に追求する風土を作ります。

(5)明るい雰囲気で進める

危機感を持って行う一方、悲愴感があっては意欲的にプロジェクトを進めることはできません。プロジェクト実施にあたっては、ゲーム感覚で失敗を恐れずにやれる、ちょっとした成果を誉め合うポジティブな雰囲気を作ります。

 ブレークスループロジェクトの成果を踏まえて、改めて戦略計画の方向性、目標や予算の見直しを行います。戦略計画を本格的に実施する前に、計画実現の感触を得ることによって、当初よりも高い目標達成、環境変化に対しての余裕が生まれるなどの効果が期待できます。

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