組織革新「ブレークスループロジェクト」

ニューチャーネットワークス 山本 邦正
ニューチャーネットワークス 張 凌雲 2009年6月24日

前回までのあらすじ

 佐藤さんのチームは、ブレークスループロジェクトの取組内容を経営トップに発表したが、残念ながらそのまま承認というわけにはいかなかった。取組内容を練り直し、再度発表してなんとか承認を得ることができた。

 

表参道店プロジェクトチームメンバー
  佐藤さん・・・イタリアン事業部に所属。プロジェクトチームのチームリーダー
アルバイト時代からA社に在籍する現場たたき上げ
  酒井さん・・・ホールスタッフのリーダー
  大久保さん・・・キッチンスタッフのリーダー
  本多さん・・・ホールスタッフ。表参道店でアルバイト歴5年のベテラン
  榊原さん・・・キッチンスタッフ。デザート担当
  石川さん・・・本部マーケティング部。マーケティング面でチームを支援

 

■ ブレークスループロジェクト初日

 発表が終わった翌日、佐藤さんとチームメンバーは、表参道店に集まっていた。

「みなさん、今日がプロジェクトの1日目です。スケジュール通り進むと2週間とちょっとでカフェタイム営業がスタートします。個人別の目標・スケジュールについては、キックオフ前にまとめましたが、もう一度確認の意味で共有しておきたいと思います。」

 

「中間報告は、カフェタイム営業を開始して2週間経った時点で、プロジェクトの途中経過と 中間報告後から最終報告までの計画を併せて報告することにします。具体的には、準備フェーズのまとめ、カフェタイム営業の実績、当初の計画に実施結果を フィードバックして見直した計画を報告する予定です。」

「また、各人のタスクについては、私に毎日進捗状況を報告してください。その報告内容によって柔軟に計画修正やリソース調整を行なっていきたいと思います。(※成功のポイント1)

「それでは皆さん、目標に向かってプロジェクトを進めましょう!」

※成功のポイント1
 計画通り進まないという事態は、往々にして起こることです。進捗状況や発生している課題など、プロジェクトで起こっている状況を即座に把握・共有できる 仕組みを作り、柔軟に計画を修正して対応しましょう。あくまでも、プロジェクトの目標を達成することが目的であり、プロジェクトを計画通り進めることは目標達成のための手段に過ぎません。

 

■ 提供メニューの方針転換

 定例ミーティング終了後、デザート担当の榊原さんは、早速これまで自分で温めていたメニュー案を棚卸しした。2日後、そのメニュー案を元にして、 目標より1品多い、5品の試作メニューを作成し、全員で試食して議論を行ない、20代向け、30~40代向け、50代以上向けの3品に絞った。

「榊原さんをはじめ、議論に参加してくれた皆さん、ありがとうございました。この3つのメニューは、明日から1週間、ランチタイムにいらっしゃるお客様に、従来のデザートの替わりに提供してご意見を伺いたいと思います。」

「佐藤さん、1つ意見があるのですが。」と言いながら本多さんが立ち上がった。

「せっ かくなので、ランチタイムだけでなく、ディナータイムのお客様にも提供してはどうでしょうか?通常メニューのデザートの所に一緒に載せて、試作なので割安 ですが感想をいただきますといった断りを添えておくのはどうでしょう?その方が、ディナータイムにいらっしゃったお客様に対しても、カフェタイム営業が始 まることを伝えられる気がします。」

「なるほど、そうですね。カフェタイムをついついランチタイムの延長として捉えてしまっていたので、ディナータイムのことを見落としていましたね。」

 本多さんの意見に、佐藤さんをはじめとした全員が賛成し、ディナータイムのお客様にも試作メニューを提供し、感想を聞かせてもらうこととした。

 試作メニューを提供し、ホールスタッフを通じてアンケート形式で感想を集めて3日が過ぎた。感想の回収率は目標の90%に達していなかったが、数は増えてきて傾向が見えるようになったので、メンバーを集めて打合せを行なった。お客様の感想は以下のようなものが多かった。

  • おやつに食べるにしては、1人前の量が多い
  • おいしいけれども、量が多くカロリーが気になる
  • 1種類だけでなく、いろいろな種類のスイーツをちょっとずつ食べたい

 「お客様より色々な意見を頂きましたが、従来の予定通り、試作メニューの提供をあと4日間 続けて感想を集めたいと思います。ただし、残りの4日間は、アンケート形式の感想だけでなく、直接お客様から感想を聞くようにしてください。また、榊原さ んもホールスタッフに協力してもらい、自分でもできるだけお客様の生の声を聞いてみてください。キッチンスタッフ・ホールスタッフが連携して一緒に行動し、より多くの感想を効率良く収集しましょう!(※成功のポイント2)

 佐藤さんは、すぐ試作メニューを変えることも考えたが、榊原さんにお客様の感想を直接聞いてメニューに反映させてほしいと思い、試作メニューでの意見収集期間を予定通り続けることとした。

 榊原さんは、ホールスタッフと引き続き試作メニューの感想を収集し、メニューを練り直した。直接感想を伺ったお客様の中には、コーヒーを飲みなが らちょっとだけ甘いものをつまみたいという人や、スイーツを食べたいという男性も多かった。そこで、榊原さんは、試作メニューの3品をゼロベースで考え直 し、プチサイズのスイーツや大皿で作ったスイーツを、目の前で取り分けるスタイルにし、たくさん食べたい人、色々な種類を少しずつ食べたい人、ちょっとつ まみたい程度の人など、様々なニーズに対応できるようにすることをメンバーに提案した。
 榊原さんの提案に対して、酒井さんから質問があった。

「ホールスタッフが取り分けることになると思うけれども、はたしてホールスタッフのスキルで取り分けて盛りつけられるのかな?」

 この質問対し、榊原さんはすでに答えを用意していた。

「問題ないと思います。基本はプチサイズのスイーツとし、大皿から取り分けるものは一部に しようと思います。取り分けが必要なものも、ティラミスなどスプーンで簡単に取り分けられるものに限定したいと思います。ディナーでパスタとかを取り分けるスキルがあれば大丈夫です。」

「なるほど、じゃあ大丈夫そうだね。」

 こうして、当初計画していたメニュー方針とは異なったものになったが、試行的にメニューを提供して得たお客様の感想を素早くフィードバックし、メニューに反映させて短期間で提供メニューをまとめることができた。

※成功のポイント2
 メンバーが一緒になって行動することで、現場の問題・課題の認識ギャップを小さくすることができます。また、成果追求のためには、開発担当者が営業現場に足繁く通うなど、プロジェクトメンバーの職種や肩書きにとらわれない活動が求められます。

 

■ メニュー以外は比較的順調!?

 榊原さんがメニュー開発を行なっている間に、佐藤さん、酒井さん、大久保さん、本多さん、石川さんで集客方法の検討を行なった。まず来店者へのお 知らせ配布、机の上に置くメニューに案内を添える、人通りの多いメインストリートまで出てビラ配りする、お店のぐるなびのページでもアピールするなどいろ いろアイデアが出たが、どれも即実行可能なものだったので、すべて取り組むこととした。
 酒井さん、本多さんをはじめとしたホールスタッフは、カフェタイムのオペレーション練習を行なった。ランチタイムやディナータイムに比べ、提供するメ ニューも少ないことから問題なくオペレーションできることが確認できた。また、酒井さんが懸念していた、ホールスタッフによるスイーツの取り分けについて も、問題なく対応できることが確認できた。
 準備は当初の予定通り完了した。いよいよカフェタイム営業のスタートです。

 

■ カフェタイム営業スタート!

 カフェタイム営業スタート初日、気なっていた天気は快晴。おかげでランチタイムはいつも通り盛況だった。ランチタイムの忙しさが一段落した頃、みんなカフェタイム営業を意識してちょっとそわそわし始めた。佐藤さんはキッチンに手の空いたホールスタッフを呼んだ。

「みなさん、あと少しでカフェタイム営業が始まります。練習通りやれば問題ないので、平常心でがんばりましょう!」

榊原さんが、いろいろなスイーツを乗せたワゴンを押してやってきた。

「ホールスタッフの皆さん、カフェタイムに出すスイーツの準備ができました。初日ということで結構力作に仕上がってしまいました。よろしくお願いします。」

 初日のカフェタイム営業はあっという間に終了した。しかし、客足は想定していたほどではなく、目標売上の9万円には到達しなかった。ディナータイム終了後、プロジェクトメンバー全員で初日の営業をふり返ったが、今週は今のままで様子を見ることとした。
 1週間後、依然として客足は伸びていなかった。週末はなんとかぎりぎり目標である9万円に到達した日が1日だけあったが、その他の日はすべて目標未達 だった。しかも佐藤さんたちが目標未達の状況に焦っている一方、今回のプロジェクトメンバーではないホールスタッフは特に気にしていない様子で、佐藤さん は双方の間の意識のギャップを感じていた。佐藤さんは解決策が見えず、PMOチームの鈴木さんに相談することにした。

 佐藤さんは、PMOチームの鈴木さんから「本社でディスカッションしましょう。」と言われ、本社を訪れた。会議室に入ったところ、他のブレークスループロジェクトのリーダーが何名か集まっていた。リーダーたちは、それぞれに課題を持っているようで、情報交換をして課題解決の糸口を見つけるため、PMOチームの鈴木さんが打合せを調整したようだ。(※成功のポイント3)

※成功のポイント3
 事務局スタッフは、上手く進んでいないプロジェクトがあったら、素早く解決の糸口を見つける場を提供します。この場では、行き詰っているプロジェクトのメンバー以外の第三者を含めて、新たなアイデアや気づきが得られるようにします。

佐藤さんは、「集客に関する課題」、「今回プロジェクトメンバーとメンバー以外の従業員との意識の差」について相談した。
 意見交換の結果、「集客に関する課題」については、いろいろな取組を行なったが、それらがどう結果に結びつくのかという仮説のないまま、従来の取組を安易に行なっていたことが原因なのではないかということになった。「意識の差」については、プロジェクトメンバーでなくても参加感が味わえる仕掛け(※成功のポイント4)を通じて、目に見える形でプロジェクトに貢献しているという感覚を持たせることが必要なのではないかという意見が出された。そして、それらへの対策を下記のようにまとめた。

  • 来店してもらうためにクーポンを配布する。その際、どのエリアで配布した方が効果的か、実験しながら探ってみる
  • 配布するクーポンには配布日と配布者が分かるような記載をし、誰がいつどこで配布したのかが分かるようにしておき、効果的な配布エリアを探っていく
  • お客様に使って頂いたクーポンを回収して誰がいつ配ったものかを集計し、集客競争をすることで、ゲーム感覚でプロジェクトに参加できるようにして達成感を味あわせて盛り上げる
  • クーポンの配布はエリアで絞る以外に、ターゲットとなる顧客を絞って配る方法も有効かもしれない

※成功のポイント4
  プロジェクトメンバー以外の人たち(社内はもとより取引先などの社外も含む)をどのようにしてプロジェクトに巻き込むかが重要です。プロジェクトメンバー だけで出来ることを考えていては、目標達成のためのアクションが限られてしまいます。プロジェクトメンバー以外の人たちに、どうやってプロジェクトを認 知・理解してもらい、どうしたらプロジェクトのために協力してアクションしてもらえるかを考えましょう。

 佐藤さんは、今回検討した対策を早速やってみることにした。

「マーケティング部の石川さんを中心に、具体的なやり方を考えてもらおう。」

表参道店に戻り、そのことを伝えるために打合せをしようと、メンバーに声をかけてまわっている時、キッチンスタッフリーダーの大久保さんが青い顔をして飛んできた。

「佐藤さん! 榊原さんが●※△◆□!!!」

「大久保さん、落ち着いてください。榊原さんがどうしたんですか?」

「す、すみません、榊原さんが、カフェタイムの準備が終わった後、倒れましたっ!」

「えっ?! 大久保さん、それどういうこと??」

 

(第4話へ続く)

 

次回のあらすじ

  集客、意識の差に関する課題解決に光が見えたと思ったその矢先、痛すぎる榊原さん の離脱。中間報告を直前に控えているが、この状況に対する対策 を考えなければならない。佐藤さんたちは、この危機に対してどのような対応策を考えて中間報告に臨むのか。さらに、中間報告後にどう行動するのか?!

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