組織革新「ブレークスループロジェクト」

ニューチャーネットワークス 山本 邦正
ニューチャーネットワークス 張 凌雲 2009年9月16日

前回までのあらすじ

 中間報告後、目標達成に向けた集客プランを展開し、なんとか目標達成にこぎつけた。しかしながら、目標水準をそのまま維持する事は出来ず、逆に業績もチームの状態も悪くなっていく一方であった。佐藤さんはこの現状を打破し、再び目標水準へ導くために、プロジェクトの立て直しを決意した。

 

表参道店プロジェクトチームメンバー
  佐藤さん・・・イタリアン事業部に所属。プロジェクトチームのチームリーダー
          アルバイト時代からA社に在籍する現場たたき上げ
  酒井さん・・・ホールスタッフのリーダー
  大久保さん・・・キッチンスタッフのリーダー
  本多さん・・・ホールスタッフ。表参道店でアルバイト歴5年のベテラン
  榊原さん・・・キッチンスタッフ。デザート担当
  石川さん・・・本部マーケティング部。マーケティング面でチームを支援

 

■プロジェクト再始動 

~プロジェクトの現状を立て直し、再度当初の目標9万円達成へむけて取り組む

 
佐藤さんは、気が緩んだことで、管理まで緩くなってしまった現状を引き締めるため、プロジェクトメンバーを集め、再度管理を徹底することを伝えた。
 
「みなさん、目標達成後、業績が良くない状況が続いていますが、それを打破するために、再びしっかりとプロジェクトの管理をしていこうと思います。具体的には、毎日個人の活動を報告し、カフェタイム営業で起こっていることを全員で共有、課題となりそうなことを明らかにして翌日の行動に反映させるといった、計画(P)・実行(D)・評価(C)・改善(A)のサイクルをきちんと回すことです。以前できていたことなので特に問題ないと思いますが、初心に戻り、もう一度しっかり管理していこうと思います。よろしくお願いします。」
 
しかし、佐藤さんは、一度緩んだ気を再度引き締め直すためには、全員が一丸となるような、より強い動機付けが必要だと考えていた。
 
 
翌日、入院していた榊原さんが職場に復帰してきた。復帰祝いもかねてプロジェクトメンバーでランチ営業前のまかないを食べることにした。
 
「みなさん、どうもご無沙汰しております。入院中はご心配、ご迷惑をおかけしました。おかげさまで、大事には至らず、こうして再び職場に戻ってくることができました。また本日よりプロジェクトメンバーとしてお仕事させていただきます。よろしくお願いします。」
 
「榊原さん、お帰りなさい。私のプロジェクトリーダーとしての力が足らず、榊原さんに負担をかけてしまい申し訳ありませんでした。また、榊原さんが入院中、スポットの人員を手配できず、みなさんにも負担をかけてしまい申し訳ないです。本日、当初のメンバーが再集結しましたので、再び目標達成を目指してがんばっていきましょう! よろしくお願いします。」
 
佐藤さんは新たな決意を皆に表明し、プロジェクトの再出発を宣言した。
 
「あの、すみません・・・。」
 
榊原さんが申し訳なさそうに手を挙げた。
 
「自分は入院していたこともあって、実は目標達成を体験していないんです。みなさんは、“再び”なのでしょうが、自分としてはまだピンとこないんです・・・。」
 
「だから、なんとしても自分も目標達成の瞬間を味わいたいんです!みんなで一緒にがんばって目標にたどり着きましょう!」
 
確かにそうだった。佐藤さんは何とか榊原さんにも目標達成のあの瞬間を味わってもらいたいと思った。それはチームメンバーたちも同じ思いだったようだ。
 
「榊原さんがデザートの準備とかしてくれるから、自分は集客を目一杯やります!」
 
本田さんは、榊原さんがいない間、集客、デザート下準備と大車輪で働いてくれていた。
 
「よし、まずは中間発表時の目標、売上9万円までこぎ着けましょう!」
 
※成功のポイント
プロジェクトに刺激をあたえるためには、ゲーム感覚・ドラマ性を演出することが有効です。プロジェクトリーダーは、絶えず変化のきっかけを逃さず、変化をすぐにチャンスに置き換える意識を持つことが必要です。
 

■目標達成へ

~ストレッチ目標に挑む 

プロジェクトの再出発後、榊原さんの復帰もあり、プロジェクト管理を徹底した結果、プロジェクト開始時のの目標だった9万円は割とあっさりクリアできた。9万円強の売上水準も維持できている。しかし、中間発表後再設定したストレッチ目標の売上12万円までは、到達できるような手応えはなかった。
佐藤さんは、プロジェクトチームでの取り組みに行き詰まりを感じ、再度PMOチームの鈴木さんに相談することにした。
 
「鈴木さん、表参道店の佐藤です。当初の目標9万円の水準は維持出来ているのですが、中間報告後に引き上げた目標12万円に達するような手応えをなかなか得ることが出来なくて、プロジェクトが停滞気味なのです。」
 
「なるほど。これまでお話しを聞いた感じだと、プロジェクトメンバーの取り組みだけで目標達成しようとしていませんか? なにか他に活用できる社内外の手段って無いですかね?」
 
「そうですね・・・。表参道には我々の店舗しかないので、他の店舗でカフェの宣伝してもらうって訳にはいかないし・・・。ちょっと、社内外の活用に関してプロジェクトメンバーでディスカッションしてみます。」
 
翌日、佐藤さんはプロジェクトチームを集めて社内外の活用についてアイデア出しを行なった。
 
「お店に来ているお客様は、なんかみんな同じような袋を持っている気がするんですけど、最近の流行の店なんですかね?」
 
ディスカッションの様子を見に来てくれたPMOチームの鈴木さんの第一声だった。その話を聞いて、ベテランホールスタッフの本多さんも何となく思い当たる節があった。
 
「確かに、そうかもしれない。どっかこの近くのショップの袋だった気がするんだけれどなぁ。早速今日の営業時間に確認してみます。」
 
営業時間によく見てみたところ、すぐそばにあるインテリアショップの袋であることが分かった。もともとは食器や食卓まわりの雑貨などを取り扱っていたが、それに併せて食材も取り扱うようになり、なかなかの人気店になったそうだ。このお店と提携して集客活動が展開できないだろうかと、ディスカッションした結果、以下のような企画にまとまった。
 

  • その日の実物のデザートメニューをインテリアショップのディスプレイに使ってもらう
  • インテリアショップで買い物をした方に割引クーポンをプレゼントする
  • カフェタイム営業に来て頂いたお客様に対して、インテリアショップで販売している食器を実際に使用してデザートを提供する
  • 食器は2~3種類の中から選べるようにし、お客様に、より食器を認知してもらうようにする

 
企画はまとまったのだが、どうやって実行するのか、誰を通して交渉したら良いかなどまったく見当がつかなかったので、再びPMOチームの鈴木さんに相談した。企画の内容を鈴木さんに説明したところ、
 
「なかなかおもしろい取り組みですね。協力してくれそうな部署と調整してみます。」
 
ということで、この件については一旦、鈴木さん預かりになった。
 
※成功のポイント
これまでの形式にこだわらず、上手く行きそうな方法は、障害があってもあきらめずに検討します。障害を取り除くために、事務局を有効に使い、プロジェクトメンバー外の人からも協力を得られるようにします。
 
 
数日後、鈴木さんより、
 
「明日のランチタイム前、社長と一緒に表参道店を訪れるので、プロジェクトチームメンバーを集めておいてください。」
 
との連絡があった。社長直々の視察だと思った佐藤さんは、まだ目標達成の目処が立っていない現状を思うと、視察時にどう説明すればよいかと不安になったが、翌日に何とかなるものでもないので、社長には現状をありのまま報告しようと思った。
 
予定通り、社長と鈴木さんがランチタイム前に店にやってきた。鈴木さんが、なにやら大きな箱をのせた荷台を押している。
 
「みなさん、お待たせしました。先ほど例のインテリアショップとコラボ企画の交渉を行い、先方の社長と原田社長間では合意が取れました。詳細な段取りについては佐藤さんと石川さんでまとめて頂きたいのですが、早速先方より使ってほしいといわれた食器を運んできました。デザートメニューは、持っていけば今日からディスプレイしてもらえるそうなので、よろしくお願いします。クーポンも忘れずに持っていってくださいね。では、原田社長より一言お願いします。」
 
「鈴木君よりこの話を聞いて、おもしろい取り組みだと思ったので、話を進めさせてもらいました。皆には相談せず申し訳なかったが、プロジェクトの残り期間も減っていく中、プロジェクトの目標達成に向けた取り組みはすばやく実現させたかったのです。残り2週間ですが、最後まで諦めずにとことんやり抜いてください。目標達成期待しています。」
 
社長自らプロジェクトのために動いてくれたということで、プロジェクトメンバー全員、何が何でも目標を達成してやるという思いが強まった。
 
※成功のポイント
短期間で高い目標を達成するためには、組織の勢いを落とさずに一気に進めていかなければなりません。しかし、その過程は組織に大きな負荷がかかります。今回のように経営トップが言葉だけでなく、直接アクションを起こすことは、組織的な一体感の醸成、メンバーのモチベーションを大きく向上させるきっかけになります。
 
コラボ企画が始まってから、カフェタイム営業の売上は順調にアップしていった。お客様に直接意見を聞いてみたところ、インテリアショップで販売している食器で実際にデザートを食べられることや、食器を自分で選べることなど、なかなか好評のようだった。先方のインテリアショップでも、デザート実物のディスプレイはインパクトがあったようで、うまくいっているらしい。中には、インテリアショップのディスプレイを見て、お店に足を運んでくださったというお客様もいた。
 
そして、コラボ企画を始めて1週間目、ついに、ストレッチ目標だった売上12万円に到達、その後も水準を維持している。
明日は、プロジェクトの最終報告会の日。佐藤さんは自信をもって、報告会を迎えることになった。
 
(最終回へつづく)
 

最終回のあらすじ

  佐藤さんたちのプロジェクトチームは、最終報告会までになんとかストレッチ目標を達成し、目標売上の水準を維持することができた。途中、様々な危機的状況になりつつも、論理的な施策と目標達成への情熱でその危機を乗り越えてきた。次回はいよいよ最終回。最終報告会で佐藤さんがプロジェクトをふり返ります。

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