組織革新「ブレークスループロジェクト」

ニューチャーネットワークス 張 凌雲 2010年11月24日

前回のコラムの最後に、ブレークスループロジェクトは、プロジェクトの目標達成を通じた組織(事業部門など)の業績向上と、そこで働く人の意識・行動改革を実現させることであると説明しました。ブレークスループロジェクトが成果を出せたか否かは、組織の業績向上に貢献できたか、プロジェクト活動を通じて組織改革を実現できたかで判断します。
業績は数字として、活動結果を定量的に確認することができます。一方、組織の意識や行動の改革を把握するには、件数や回数などの定量的な指標だけではなく、改革の要因を定性的に分析する必要があります。
今回のコラムでは、ブレークスループロジェクト実施による成果の評価をどのような視点で行うかについて説明をします。
 

■ブレークスループロジェクト実施の成果を振り返る

ブレークスループロジェクト活動を通じて新たな組織体質を作るためには、日々の活動、成果創出を通じて明らかになった気づきや課題を組織で共有できるようにしなければなりません。プロジェクト目標の達成状況が明らかになる終盤に、プロジェクトメンバーは、下記のプロジェクト成果を整理し、プロジェクト外部の人たちに自分たちの活動内容と成果を示せるようにします。
 
 成果1.プロジェクト目標の達成率
 成果2.プロジェクト目標達成の成功要因
 成果3.プロジェクト目標未達成の要因
 成果4.プロジェクトテーマの組織展開
 成果5.組織に対する提言
 
 

成果1.プロジェクト目標の達成率

最初にプロジェクトの成果を客観的に把握します。プロジェクト開始時に設定した目標は定量的に設定されています。プロジェクトの成功/不成功を客観的に評価するためにプロジェクト目標の達成率を把握します。
プロジェクト目標の達成率を評価する際に注意する点としては、目標未達のチームが、あたかも自分たちのプロジェクトが成功したように見せることです。
その例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • プロジェクト目標に対する達成率ではなく、前年同期間の実績に対する達成率を示す。

→例えば、プロジェクト目標に対する達成率は80%~90%だが、予算もしくは前年実績に対する達成率が103%~105%の場合、それを強調し、あたかもプロジェクトが成功に終わったように示す。

  • 成果が著しく出た特定の目標のみを強調する。

→売上額と利益率、受注件数と売上額など複数の目標を設定している場合は、いずれかの目標が達成できていることを強調し、プロジェクトが成功に終わったように示す。
 
プロジェクト目標は、戦略目標でもあり、組織の将来の成長のために求められる目標です。一定の成果が出たことは評価すべきですが、当初設定した目標全てを達成することが、プロジェクト本来の目的を果たすことになります。
 

成果2.プロジェクト目標達成の成功要因

プロジェクトが目標を達成した場合、その要因を分析することが、組織の今後の成長に繋がります。成功要因の分析は、「プロジェクト実行計画」の『プロジェクト実施概要シート』にある“②プロジェクト目標達成の成功要因(取り組み課題)”をもとに行います。当初想定した成功要因を実現できたことは、これまで組織がブレークスルーできなかった課題を解決できた、既成概念を超えた活動が行えたことになります。これらの活動を組織に広く展開、定着させるためには、以下の視点で目標達成との因果関係を明確にします。

  • 実際にどのような取り組みを行ったのか、そのやり方はこれまでの仕事のやり方とどのように違うのか
  • 取り組みにあたって関係者や組織をどのように巻き込んだか
  • 組織に新たな仕組みやビジネスモデルの構築をもたらしているか
  • プロジェクトを通じてメンバーが成長・変化した点は何か(スキル、行動力、コミュニケーションなど)

メンバーがプロジェクトの成功要因を認識することで、プロジェクト実施による達成感や自信を持たせるだけでなく、今後の仕事に対する意識や行動に変化をもたらすことができます。
 

成果3.プロジェクト目標未達成の要因

プロジェクトが目標を未達成であった場合、その要因を分析することで、次期のブレークスループロジェクトを実施する際のテーマや、組織が依然として解決できない課題を明確にすることができます。目標が未達成になる要因は、①当初に立てた目標が高過ぎた、②計画していた活動が実施できなかった、③計画通りの活動を行ったが成果がでなかった、の3つに分けられます。

①当初に立てた目標が高過ぎた
  当初の目標が高すぎたことが未達成要因である場合は、計画立案時点の内外環境の分析・把握が不十分であったと考えられます。時折、プロジェクト終盤になって、「自分たちは高い目標設定をすることを組織から義務付けられていた」と訴えるプロジェクトチームがあります。計画時に現状把握が十分できていれば、達成可能なストレッチ目標設定で戦略サポーター、プロジェクトオーナーと合意ができたはずです。
 
②計画していた活動が実施できなかった
  計画していた活動が実施できなかったことが未達成要因である場合は、プロジェクト活動を最優先させる環境づくりができなかった、進捗遅れの原因を取り除けなかったと考えられます。リーダー、戦略サポーターは、前回のコラムで説明した、進捗の阻害要因を取り除く活動を行えたかどうかを振り返ります。阻害要因を取り除く対応をしたものの成果が上がらなかった場合は、原因がメンバーのスキル、活動への取り組み意識の低さなどメンバーによるものなのか、内外の組織との関係に未解決の課題があったのからなのかを明らかにします。
 
③計画通りの活動を行ったが成果がでなかった
  計画通りの活動を行ったが成果がでなかったことが未達成要因である場合は、計画立案時の仮説、成功要因の設定が誤っていたと考えられます。さらに仮説、成功要因の設定の誤りの根本的原因は、過去の成功体験から脱せずに、既成概念の枠組みで仮説設定や成功要因を定義したことにあります。そのため、プロジェクトメンバーは、プロジェクト実施中に下記のようなことに気づかされます。
 

  • 営業に関するプロジェクトの場合は、市場・顧客のニーズ理解不足、営業プロセスの分析不足
  • 改革・改善に関するプロジェクトの場合は、仕組み・仕掛けを作ったことで満足し、改善現場の意識改革まで及ばなかった

 
その他の目標未達成の要因として、内外の環境変化を挙げる場合があります。実際に災害、法規制や組織変革、会社の戦略転換により、プロジェクトの実行が不可能になることもあります。戦略サポーターとマネジメントチームは、環境変化は事前に把握可能であったか、環境変化への対応策が十分であったかを確認し、未達成の言い訳になっていないかを確認します。
目標達成、未達成の要因を分析する際には、客観的な視点での分析が必要になります。
主体者であるプロジェクトリーダー、メンバーだけでは、十分な要因分析が行えない場合があります。戦略サポーターやマネジメントチームがリーダーやメンバーへの問いかけを行い、要因を明確にしていきます。
 

成果4.プロジェクトテーマの組織展開

ブレークスループロジェクトを一過性のイベントで終わらせないためには、プロジェクト活動を通じたメンバーの気づき、取り組みアイデアや成果創出のプロセスを組織へ広く展開しなければなりません。各プロジェクトチームは、実施したプロジェクトの成功要因、未達成要因をもとにして、どのようにして他の組織、異なるターゲット市場、顧客、商品対象にも展開できるかをチーム内で検討し、その方法をまとめます。
 

成果5.組織に対する提言(次期取り組みテーマの提言)

各プロジェクトチームは、組織が中長期戦略ビジョンを達成するために、今後取り組むべきことは何かをプロジェクト活動にもとづいて提言する必要があります。提言は、成果報告会(後述)でプロジェクトオーナーに対して行います。
提言内容は、プロジェクト活動を通じて明らかになった、組織が直近で解決すべき重要な課題です。この課題は、次期のブレークスループロジェクトのテーマ候補になります。そして、今後プロジェクトがより高い成果を出すための依頼事項になります。依頼事項としては、下記があります。
 

  • 設備投資、人材育成に対する投資
  • アライアンス、M&Aなど外部組織との提携
  • 社内の他組織との連携に不可欠な、組織トップ同士の調整
  • プロジェクトチームへのより大きな権限の付与

 
特に投資を伴う提言に関しては、投資対効果を提示し、プロジェクトオーナーが意思決定をしやすいようにしなければなりません。

■プロジェクトの継続実施の検討

マネジメントチームは、プロジェクトの目標達成度、現在の内外事業環境を踏まえて、各プロジェクトを当初の実施期間終了後も継続させるかどうかの意思決定を行います。継続の決まったプロジェクトに、引き続きブレークスループロジェクトとして取り組む場合は、新たに目標、メンバー設定を行います。ブレークスループロジェクトとして取り組まない場合は、関係する部署で通常業務として取り組んでいきます。

■プロジェクトの成果を評価する場を作る

ブレークスループロジェクト活動は、活動目的や内容について、プロジェクト当事者以外にほとんど認知されていないことが多くあります。ブレークスループロジェクトの目的の一つは、特定のプロジェクトの成功をきっかけにして、組織全体の体質変革を行うことです。ブレークスループロジェクトの成果を組織に波及させるためにも、これまで行った活動内容を共有する場としての成果報告会を行います。
成果報告会には、ブレークスループロジェクト関係者だけではなく、今後プロジェクトの効果を波及させたい組織の人々にも参加してもらうように働きをかけます。
成果報告会では、評価シートを用いて参加者からプロジェクト活動に対する意見をもらいます。
(図:ブレークスループロジェクト評価シート)

 


 
成果報告会を行うことの意義は、以下が挙げられます。
 

  • プロジェクト成果に対して、トップからの評価によるメンバーのモチベーション向上
  • 組織的課題を解決するための成功事例の共有
  • プロジェクトを通じて明らかになった新たな課題の共有
  • 成果報告会に向けた資料作成を通じた、プロジェクトチームによる活動の振り返りの機会と成果の明確化
  • トップに対して他のリーダーよりも良い成果をアピールしたいという、リーダーのライバル意識の醸成
  • 次期ブレークスループロジェクトのテーマ案の検討

成果報告会ではプロジェクト成果の評価を行いますが、最も重要な点は、組織の中長期目標を達成するために次に何を行うべきかを共有する場にすることです。
ブレークスループロジェクトは、プロジェクトの計画立案、実行から実施評価、新たな組織課題の発見という流れの「大きなPDCA」と、プロジェクト実行時の週次、日次での活動計画とメンバーの行動に対するフィードバックを行う「小さなPDCA」をまわすことで、短期間での目標達成と新たな組織体質作りを実現できます。

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