【マネジメント基礎講座】ビジネスリーダー必須のマジジメントスキル


バックナンバー
メールマガジン

PPM-多角化した企業における戦略的な資源配分とは-
ページ 1ページ 2ページ 3ページ 4ページ 5ページ

PPMの応用 −GEマトリックス−

 BCGのマトリックスは単純で分かりやすく使いやすいフレームワークですが、それゆえに限界がありました。1つ1つの事業、製品単位を、単に市場成長率と市場シェアのみで捉えようとしているため、ある時点における特にシェアが低い事業や製品について、追加投資を行ない育てていくのか、あるいは撤退をしてしまうのかといった判断を誤る可能性があります。


 GEマトリックスは、BCGマトリックスの持つ限界を補うことを意図して、GE社とマッキンゼー社によって開発されたものです。GEマトリックスでは、BCGマトリックスで使われた二つの軸、「市場成長率」と「市場シェア」の代わりに「業界の魅力度」と「自社の強み」を置きます。さらに、BCGマトリックスではそれぞれの軸を「高い」「低い」として4つのマトリックスとして分類していたものを、GEマトリックスでは「高」「中」「低」の3段階に分け、9つのマトリックスに分類します。


図7

 BCGの評価基準は、成長率と市場占有率といった比較的客観性の高い指標を用いており、数値化しやすい側面がありました。一方、GEマトリックスでの評価基準は、「業界の魅力度」「自社の強み」といった、抽象的な尺度に置き換えられています。これは、それぞれの事業、製品の特性に合わせて柔軟に変えていくことが出来ることを意味します。これにより、BCGマトリクスの静的で、表面的に陥りやすい短所を補おうとしています。


 それでは「業界の魅力度」「自社の強み」は具体的にどのように表現することができるのでしょうか。


図8

 それぞれの企業、事業、市場に独特のユニークな特性を考慮します。例えば、下の表のように具体的な評価基準で具体的な評価基準に重みづけ(比重)をして、「魅力度」や「強み」といった、抽象的な評価基準を総合的に数値化することができます。


図9

 この例のように、BCGマトリックスが採用した市場成長率、マーケットシェアといった2つの評価基準のみではなく、さまざまな評価基準を網羅して総合的に数値化することがGEマトリックスの特徴です。


 次に、各マトリックスが企業の意思決定においてどのような方向性を意味するのかを見ていきましょう。上の図で分かるように、業界の魅力度が高く、自社の強みも発揮できるマトリクスについては、さらに経営資源を投入していく方向性が考えられます。逆に、業界の魅力度が低く、自社の強みを発揮できない事業については早急に利益を回収することが望まれます。また、いくつかの事業部門を持つ企業の場合、全体の事業のバランスを考えてみることも重要です。次のような例も考えられます。


a)利益回収マトリックスに事業部門が集中してしまう場合
中長期的に企業を牽引してくれる成長事業を早急に見つけ、育てていく必要があります。BCGマトリックスと組み合わせてみるとき、問題児をいかにスターに育てていくかが課題となります。


b)増強マトリックスに事業部門が集中してしまう場合
企業としては各部門の成長が期待できる歓迎すべき状態ですが、経営資源に限りがあるため、すべての事業部門に最大限の投資を行うことが困難になる場合があります。この場合、「皆等しく資源を分け与える」方法をとると、全ての事業分野で中途半端な結果しか出ないことになりかねません。各部門間の投資に強弱をつけることが必要になります。


 強弱のつけ方において重要なのは時間軸を考慮することです。つまり「業界の魅力度」の各評価要素が将来、時間の経過とともにどう変化するのか、それに対して競合他社などの外部環境はどのように変化するのか、その際「自社の強み」はそれらの外部環境に対して効果が持続できるのか、といった視点が重要になります。


 このように、GEマトリックスはBCGマトリックスに比べて自由度が増している反面、客観性が失われ、企業の主観が入り込みやすいという短所があります。特に「自社の強み」においては一見、数値で定量的に表されていたとしても、自社内の情報ソースに頼らざるを得ないため、主観的な評価であることに変わりがありません。このフレームの使用に際しては自己満足に終始しないよう、十分に注意することが必要です。


その後のC社

 M社長就任当時、事務機に売上げも利益も依存し、カメラや光学機器は赤字となっており、借入金等の有利子負債も多く、財務体質も脆弱でした。M社長は「事業の選択と集中」を推進し、「利益優先主義、キャッシュフロー重視経営」を進めました。パソコン事業、日本語ワープロ事業等は撤退し、デジタルカメラについては利益の稼ぎ柱として育てる一方、セル方式による生産コストの抜本的削減など、経営改革を着実に実行しました。


 その結果、かつて約8400億円あった借り入れは実質的にはゼロになり、自己資本比率も35%から60%台になり、C社はポートフォリオを考えた経営で、M社長が語るように、まさに「計画通りの優良企業になった」といえます。


*マネジメントのプロからのアドバイス

 PPMは、よく使われるマネジメントツールとして、経営実務家の間でも特に有名ですが、その割には、間違えた使い方をしている方や使い方のコツを知らない方が多いように思います。通常BCGマトリックスは「戦略評価」に力点があり、GEマトリックスは「戦略行動」に力点があり、それぞれの目的に合わせて使い分ける必要があります。


 そのためBCGマトリックスでは、チャートにプロットする既存事業(製品群)を分析単位として、SBU(戦略的ビジネスユニット)に新しく括り直す必要があります。SBU同士は独立変数、すなわち、あるSBUが仮に撤退したとしても、他のSUBには影響を及ぼすことがないような単独で戦略構想できる単位であることが確認しなければなりません。シナジーや関連性がなく、相互に影響し合わないから関係だからこそ、各SBUから将来キャッシュ創出額のシミュレーションが可能となり、よって「選択と集中」するための「戦略評価」のツールとして機能するわけです。


 例えば、総合電機メーカーを分析する場合、既存の組織が、テレビ事業部とオーディオ事業部とに分かれていたとしても、合体して「AVユニット」としてSBUを設定した方が良い場合もあれば、ゲ―ム事業において、コア部品を外製化することを前提に評価し直すことも当然あり得るのです。(ちなみに、C社のBCGマトリックスが、完成品と部品が混在しているのはそのためです)


 ところで、こうした私の説明に対し、「当社は既存の事業や組織がSBUの考え方にのっとっているので、新しく括り直す必要はない」と反論される経営幹部の方がいらっしゃるかもしれません。しかし、競合他社との競争環境の激変を趨勢と捉えるのならば、ほとんどの企業においては、将来のキャッシュ創出額をシミュレーションする際に、既存の製品群や組織(事業部制など)をそのままSBUとして当てはめることがむしろ不自然であり、現実的でないことがご理解いただけると思います。


 GEマトリックスについては、既に述べたとおり、軸の設定について自由度が増している反面、恣意的な評価になるという弱点があります。しかしながら、「当該企業の将来」を規定する意思決定の「連続」が企業の経営者の役割であるとするなら、経営者が将来のビジョンを前提に、主体的に「軸」を選択し、検討すること自体は決して間違ってはいません。むしろ、BCGマトリックスは、既に手がけているビジネスの現実を出発点とするため、かえって将来の「戦略行動」の選択肢(戦略オプション)を狭めてしまう可能性があるのです。


 例えば、ソニーがデジタル一眼レフカメラ市場で「世界シェア10%を目指す」には、今まで蓄積した強み(1020万画素のCCD(電荷結合素子)や外光に強い液晶、画像処理エンジンといった半導体技術)があったとしても、コニカミノルタのカメラ事業の買収を前提としなければ、「戦略行動」を打ち出すことは困難であり、こうした発想は、BCGマトリックスからはなかなか出にくいのです。


 いずれにしろ、PPMには色々な批判があるものの、経営者の個人技に頼っていた時代に「経営を科学する」ことを持ち込んだことについては、評価できるものと考えます。



参考文献:
『BCG戦略コンセプト』水越 豊
『わかりやすいマーケティング戦略』沼上幹
『キヤノン式』日本経済新聞社


▲ ページトップへ戻る
ページ 1ページ 2ページ 3ページ 4ページ 5ページ