企業の経営者は日々、「どうしたらもっと売れるのか?」「社員の営業力を強化するためには?」「お客さまに受け入れられる提案をするには?」など、いかにして競合他社との競争に勝ち、顧客に商品やサービスを買っていただくかに頭を悩ませている。
近年では、B to Cビジネスであれば消費者の嗜好の多様化により、これまでのようなメーカー視点での商品・サービスの提供では、顧客に受け入れてはもらえない。そのためニーズの変化に対応して企業も業態が複雑化している。一方、B to Bビジネスにおいても顧客企業の要求水準が高まり、表層的な問題解決の提案だけでは顧客に受け入れられない状況だ。
今回は、システムインテグレーターのQ社の例を通して、どのように社内に蓄積された営業ノウハウを活かし、他社よりも優れた提案を行うかというヒントを得ていただきたい。
1.Q社の現状
Q社は、独立系の中堅規模のシステムインテグレーターである。営業第一部の秋山部長は、ここ数日間、立て続けに失注した2つの案件に考えを巡らせていた。2つの案件の対象企業は、これまでに自社がシステム導入の豊富な実績を持っているところであり、今回も受注の確率は高いと踏んでいたのだが……。
秋山部長がいる営業第一部は、運輸や通信といった社会インフラ系の企業を主な顧客としていた。従来これらの企業は、すでに導入したシステムがあると、それを構築したシステム会社と継続して取引を行う傾向が強かった。しかし、最近では従来からの導入実績は重要視されず、顧客企業の成長に寄与するような提案内容が採用されるようになってきた。
秋山部長はこのトレンドを、2案件の失注という事実から身をもって学び、従来までの営業とは異なるアプローチが必要であることを痛感していた。
2.Q社の営業現場の現状を考える
トップの営業に対する思いと現実 〜営業企画部 増田部長の気づき〜
Q社では、5年前から提案型営業に力を入れている。それ前はいわゆる「受身の営業」を行っており、顧客から案件の引き合いがあった時に提案を行っていた。
企業のIT投資が右肩上がりの時には、そのような営業スタイルでも一定の収益を確保できていた。しかし7年前のITバブルの崩壊以降、企業が投資に消極的になったため、従来の営業スタイルを転換し、顧客の潜在的需要を掘り起こしながら提案を行うようになった。
当初は期待通りの成果を得られていたが、最近では、競合他社に案件を奪われるようになっている。現状は、毎年なんとか増収を維持しているものの、競争激化のために利益率は低下してきている。その原因は主として相対的に自社の提案力が低下しているためであり、これはお客様の声から明らかになっている。
そこで秋山部長は、なぜ、自社の提案力が低下したかを考えてみた。その結果、以下のような仮説を思いついた。
・客観的に見てみると、自社の視点から商品・サ−ビスの機能・特徴のみを提案していた。すなわち提案営業が徹底されていなかった。
・顧客企業の担当者から直接ヒアリングする程度で得られる、部分的な問題や課題しか捉えていなかった。
・顧客企業との接点は、自社の営業部門がお客様の担当窓口に伺っているだけという部分的なものであった。
・顧客企業への提案は、自社単独で企画・検討しており、顧客企業や協力企業を巻き込んでいなかった。
・タ−ゲットとする顧客企業の選定や提案内容については、営業担当者の経験や勘に頼っていた。
各事業部では前年比でストレッチした売上目標を掲げている。しかし、営業力にも問題はあるものの、商品力や知名度なども不足し、目標の設定時点で実現可能にはほど遠い状態であった。結局そのしわ寄せは営業の行動に現れている、というのが秋山部長の認識だった。
そして、営業担当は、個人として効率的な受注獲得を目指すあまり、自分が得意とする業種として商品・サービス群に集中して営業を行うようになっていた。また、営業担当の日々の業務が多忙で学習する余裕もなく、顧客の要求レベルの高まりや技術革新に対応できなくなっていた。
秋山部長は、このような状況を打破できなければ、自社の営業力は低下する一方との危機感を抱いていた。しかし、市場での生き残りのためには売上目標を低めに設定することはできない。そこで、これまでの営業スタイルの革新をはかることにした。