■マクロ環境分析
マクロ環境分析とは、前に述べた通り、P(Politics:政治)、E(Economy:経済)、S(Society:社会)、T(Technology:技術)の4つの動向を調査・分析することです。分析の期間は、戦略企画が対象とする事業によって異なりますが、最短で3年、長くても10年程度というのが一般的です。製薬産業やエネルギー産業などでは20年、30年先の分析も必要となります。
PEST、つまり政治・経済・社会・技術を分析することは、かなり広範囲に思えるかもしれません。しかし、調査分析には必ず主体が存在し、分析はその主体が影響を受けると考えられるものを中心に行いますから、調査の範囲はある程度限定されてきます。主体が誰で、どのような事業を目指すのかによって、PESTの捉え方も、分析すべき影響も大きく異なります。どの会社も、どの事業も、マクロトレンドの捉え方が全く同じということはあり得ません。
PEST分析を的確に行なうには、自社の財務的影響を想定することがポイントです。財務的影響には大きく分けて2つの種類があります。
一つは損益、すなわち損益計算書(PL)に関わるもの、つまり売上高、営業利益、経常利益への影響です。もっと細かく分解して言えば、売上、単価、数量、人件費、広告宣伝費、物流コスト、減価償却などの販売管理費、営業外損益などへの影響を見ていきます。
もう一つは貸借対照表(バランスシート:BS)に関わるもので、マクロ環境が、自社の保有する工場、設備、土地などの固定資産、ソフトウエア、ブランド、技術特許などの無形固定資産、有価証券、現預金などに与える影響です。例えば、現金を日本円で持っていて為替が円安に振れた場合、バランスシート上の現金の価値が下がることになります。海外からの仕入れをベースとする事業には大きな影響を与えるでしょう。
PEST分析は、PESTの各要因をさらにブレークダウンした項目で分析します。例えば、半導体のような国家の経済安全保障の対象となっている事業にとってのP、すなわち政治の影響を分析する場合であれば、「主要取引国の政治動向」「国際関係」「自国の経済安全保障政策」「エネルギー政策」をはじめ、「関連する産業政策」といったブレークダウンした項目を調査しておかなければなりません。
同じように、経済、社会、技術の動向についても、自社の戦略企画の対象となる製品・事業を念頭に、分析項目をブレークダウンして調査します。この作業の際、業界担当株式アナリストが分析に使用しているマクロ環境動向のブレークダウン項目を参考にするのもよいでしょう。ただし、業界担当株式アナリストが設定する項目は、既存事業を分析するためのものですので、皆さんが企画している事業とは対象が一致していない可能性もあるので、よく注意してください。
■リスク分析とシナリオ分析
マクロ環境分析をしていくと、様々な事業リスクが見えてきます。そこで次はリスクマトリクスを作成し、そのリスクを仕分けします。
リスクマトリクスは、縦軸に影響度、横軸に発生可能性を置き、定性的ではありますが、何らかの基準となる尺度をもって、4象限に仕分けします。具体的には、発生可能性が50%以上のものを「発生可能性:高」とするなどです。

PEST分析からシナリオ分析までの流れ
このリスク分析が甘いと、技術マーケティング戦略そのものの現実味がなくなりますので、シビアに実施する必要があります。特に、外部環境の変化に対して、コストダウンや人件費抑制といった改善策で対応してきた企業は、重視すべき外部環境の重要性を低く見積もりがちですので、気をつけなければなりません。
競合の動向も要注意です。同じ業界の競合は感知していても、異業種の企業が新たなエコシステム・ビジネスモデルなどで市場イノベーションを仕掛けてくる場合、その異業種競合に気づけないことが大変多く、中長期的に見れば大きな影響を受けることになります。
リスクマトリクスでリスク分析ができたら、そのリスク要因をいくつか組み合わせて、3つのシナリオを作成します。
環境変化シナリオは無数に想定できますし、一度想定しても、現実的には時間の経過とともに変化していきますので、3つに整理したところで無駄に感じられるかもしれません。しかし、環境変化を把握する範囲と基準を決めて、環境シナリオという形に落とし込まないと、環境変化自体を認識しにくくなりますし、戦略の企画も遅れることになります。かといって、シナリオの数は多ければよいというものでもなく、10パターン持っても認識しにくくなるので、通常は3つのパターン、多くても5つのパターンを想定します。
シナリオは、基軸になる「最も重視されるべきトレンド」を基軸にし、その次に重要なトレンド2つか3つをサブにして、それらの組み合わせで作成します。影響度合いに応じて最大・最小・中庸の3つをつくる、あるいは可能性のあるパターンを3つ並列するのでもよいでしょう。どのような視点で3つのシナリオをつくるかは、トレンドの特性によって判断します。
ここで初めて、マクロ環境分析による技術マーケティング戦略仮説の検証を行なうことができます。すなわち、3つのシナリオにおいて、最初に企画した5つの技術マーケティング戦略仮説の要素、すなわち①顧客経験価値・革新的価値、②製品・サービス、③エコシステム・ビジネスモデル、④バリューチェーン、⑤コア技術が成立するかを考え、また仮説の修正すべき点を見つけるのです。
シナリオの立て方が曖昧であったり、リアリティが薄かったりすれば、仮説の修正が行われないままになってしまいますので、気をつけなければなりません。マクロ環境変化が自社にもたらす影響をシビアに見積もったシナリオは、技術マーケティング戦略仮説を鍛えてくれるものとしてポジティブに考えるとよいでしょう。